老々介護とは|
高齢の配偶者や親を、高齢の家族が介護しているとき
このサイトでは「子が親を介護する」場面を想定した記事が多くなりがちですが、現実には、高齢の配偶者どうし、あるいは高齢の親を高齢の子が介護しているケースが、統計の上でも多数派です。体力はもう若いころのようにはいかない。物忘れは自分にも出てきている。それでも、頼れる人が近くにいない。そういう状況の中で、今日も介護を続けている方に向けて、この記事を書きました。
また、離れて暮らすお子さん世代で、高齢の親が高齢の祖父母(またはもう一方の親)を介護している状況を心配している方にも、読んでいただけるように書いています。
先に、この記事の姿勢をひとつだけ書いておきます。老々介護を「大変そう」「気の毒に」という目で見る書き方は、この記事ではしません。高齢者どうしで支え合って生活してこられたこと自体は、恥ずかしいことでも、失敗でもありません。そのうえで、負担が大きくなりやすい構造があること、使える支援があることを、できるだけ具体的に整理します。
統計の数字は、調査年によって変わります。本文中の数値には、必ず調査年・出典を明記していますが、次回以降の調査で数字が変わる可能性があります。最新の数値は、厚生労働省の公表資料でご確認ください。
この記事では、医学的な診断はいっさいしていません。とくに「認々介護」について書いた部分は、あくまで「気づきのきっかけ」の紹介であり、診断ではありません。気になる様子があれば、かかりつけ医や地域包括支援センターにご相談ください。
費用や金額について、この記事では具体的な金額を断定しません。世帯の状況によって大きく異なるためです。
特定の家庭の事例は、実在のものも、たとえ話として作ったものも、いっさい書いていません。「Aさんご夫婦(80代)の場合は……」といった架空のケースは、この記事には登場しません。
① 老々介護とは、決して珍しいことではありません
「老々介護(ろうろうかいご)」とは、一般的に、65歳以上の高齢者が、65歳以上の高齢の家族を介護している状態を指す言葉として使われています。夫婦であることもあれば、80代の親を70代・80代の子が介護している場合もあります。きょうだいどうしということもあります。
「特別なケース」のように感じている方もいるかもしれませんが、統計の上では、まったく逆です。
同じ調査では、要介護者等と同居している主な介護者の続柄は「配偶者」が22.5%、「子」が18.2%、「子の配偶者」が4.2%となっており、要介護者等と主な介護者が同居している割合は46.1%でした。
数字は調査年によって変動します。過去の調査(2022年・令和4年)では老々介護の割合が63.5%、75歳以上同士が35.7%と公表されており、年によって数ポイント上下しています。それでも、「同居して介護している世帯の6割前後が老々介護」という状況が、ここ数年続いていることは、はっきり読み取れます。
つまり、老々介護は「特殊な状況」ではなく、「同居で介護をしている家庭の、いわば標準的な姿」に近い、というのが実際のところです。ご自身やご家族が老々介護の状況にあることを、特別に不運なことのように感じる必要はありません。
高齢の配偶者どうし、あるいは高齢の親子で、これまでの人生を一緒に築き、支え合ってこられたはずです。介護をしているという事実だけを切り取って、憐れむような見方をすることは、ご本人たちの積み重ねてきた時間に対して、失礼だと考えています。
そのうえで、「老々介護だからこそ、外部の支援を積極的に使ったほうがいい場面がある」ということを、この記事ではお伝えしていきます。これは弱さの証明ではなく、これまで通り穏やかな生活を続けるための、現実的な選択です。
② なぜ老々介護は負担が大きくなりやすいのか
同じ「介護」でも、介護する側が高齢であることによって、負担の質が変わってくると言われています。ここでは、よく指摘される要因を整理します。
- 体力そのものが低下している——若い世代であれば無理がきく場面でも、高齢の介護者にとっては、抱え上げる・支える・移動を手伝うといった動作が、体への負担として大きくのしかかります。介護する側自身が、腰痛や膝の痛み、持病を抱えていることも珍しくありません
- 介護する側にも、心身の変化が起きている可能性がある——もの忘れが増えた、判断に時間がかかるようになった、といった変化は、高齢であれば誰にでも起こりえます。介護する側だからといって例外ではありません(③で詳しく書きます)
- 社会的なつながりが少なくなりやすい——友人や知人が先に亡くなっている、地域の集まりに出づらくなっている、といったことが重なり、「相談できる相手がいない」「誰にも会わない日が続く」状態になりやすいと指摘されています
- 「まだ自分たちでできる」という思いが強く出やすい——長年連れ添った相手や、育ててもらった親だからこそ、「他人に任せるのは申し訳ない」という気持ちが、外部サービスの利用をためらわせることがあります
- 回復に時間がかかる——若い介護者であれば数日の無理がきいても、高齢の介護者では、疲労が抜けきらないまま次の負担が重なりやすいと言われます
これらが重なると、介護する側・される側の双方が、少しずつ生活の余白を失っていく状況につながりやすくなります。「まだ大丈夫」と思っているうちに、実は限界に近づいている——これが、老々介護でとくに注意したい点だと考えられています。在宅介護そのものの限界のサインについては、在宅介護の限界サイン8つ|施設入居を考えるタイミングにもまとめていますので、あわせて読んでみてください。
むしろ逆です。負担が大きくなりやすい構造があると分かっているからこそ、早めに外部の力を借りることに意味がある、というのが、この記事全体を通じた立場です。次の③以降で、具体的な気づき方や使える支援を書いていきます。
③ 「認々介護」について、家族や周囲が気づくために
老々介護の中でも、とくに慎重に扱いたいのが、「認々介護(にんにんかいご)」という言葉です。
これは、介護している側にも、認知機能の低下がある可能性がある状態を指す言葉として、介護や福祉の分野で使われることがあります。医学的な診断名ではなく、状況を説明するために使われている呼び方だと理解してください。
もの忘れや、いつもと違う様子は、加齢によるもの、疲労によるもの、体調不良によるもの、まったく別の要因によるものなど、原因はさまざまです。判断できるのは、診察をした医師だけです。
この章の目的は、「気づくきっかけを知っておくこと」だけです。気になる様子があれば、責めたり問いつめたりするのではなく、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談する——そこにつなげるための情報として読んでください。
家族や周囲が気づくきっかけになりうること
介護・福祉の分野の解説では、「介護している側」の様子として、次のようなことが気づきのきっかけとして紹介されることがあります。あくまで一般的な例であり、これに当てはまるからといって、何かが確定するわけではありません。
- 薬の管理に、これまでと違う様子が出る——飲み忘れが増えた、同じ薬が大量に余っている、逆に足りなくなっている、本人用と介護されている側の薬が混ざってしまっているなど
- 同じ手続きや、同じ買い物を繰り返す——同じ内容の支払いを何度もしている、同じものを何度も買ってきている
- お金や通帳の管理が乱れてくる——支払いを忘れる、逆に払ったことを忘れてもう一度払おうとする、通帳や印鑑の置き場所が分からなくなる
- 予定や約束を、頻繁に間違える・忘れる——通院日やサービスの利用日を取り違える、といったことが増える
- 火の始末や、戸締まりについて、これまでと違う様子が見られる
- 電話や会話の中で、同じ話を繰り返す、話がかみ合いにくいと感じる場面が増える
- 本人を問いつめない——「おかしいんじゃないか」と正面から指摘すると、不安や反発につながることがあります。まずは「最近ちょっと疲れてない?」というくらいの声かけで十分です
- 本人抜きで、先に相談することができます——地域包括支援センターや、かかりつけ医には、家族だけで先に相談することが可能です。「本人を連れて行かないと相談できない」わけではありません
- 健康診断や、介護されている側の通院に合わせて相談する——「ついでに」という形なら、抵抗が少ないことがあります
- ケアマネジャーが関わっている場合は、その場で伝えてみる——すでに介護保険サービスを利用しているなら、担当のケアマネジャーは、こうした相談を受け慣れています
- 離れて暮らす家族が気づいた場合も、同じです——電話の様子がいつもと違う、同じ話を繰り返す回数が増えた、と感じたら、まず地域包括支援センターに、状況を伝えて相談してみてください。本人を責めるより先に、専門職に間に入ってもらうことができます
限られた地域を対象にした調査研究の中には、「老々介護の世帯の一部で、介護者側にも認知機能低下が疑われる状態がみられた」とする報告もありますが、これは特定の地域・特定の調査方法によるものであり、全国的な状況を表す公式統計ではありません。そのため、この記事では具体的な割合を断定して示すことは避けます。
大事なのは、数字の大小ではなく、「介護している側にも、変化が起こりうる」という前提を、家族や周囲が持っておくことだと考えています。
④ 体力面の負担を減らす工夫
老々介護では、「支える側の体も、決して丈夫ではない」ことを前提に、工夫を考える必要があります。根性や気合いでどうにかしようとすると、支える側が先に体を壊してしまうことがあります。
- 抱え上げようとしない——立ち上がりや移動の介助は、体格差や体力に関わらず、腰や膝に大きな負担がかかります。「抱えて動かす」のではなく、「本人の残っている力を引き出しながら支える」考え方に切り替えることが勧められています
- 福祉用具を積極的に取り入れる——介護用ベッド、手すり、スライディングボード、車いす、歩行器などは、介護保険を使ってレンタルできるものが多くあります。「まだ大げさかもしれない」と感じる段階でも、早めに相談することで、負担が軽いうちに導入できます
- 住宅改修で、日々の動作そのものを楽にする——玄関や浴室、トイレの手すり設置、段差の解消なども、介護保険の対象になることがあります
- 介助の方法を、専門職に教わる——訪問リハビリや、福祉用具専門相談員から、体に負担の少ない介助の仕方を教えてもらえることがあります
ただ、体力面の限界は、気持ちだけではどうにもなりません。介護する側が体を痛めてしまえば、支えられる側の生活も一緒に立ちゆかなくなります。福祉用具や外部の手を借りることは、支える気持ちを諦めることではなく、支え続けるための方法です。
⑤ 使える公的サービス|外部の力を積極的に使う意味
老々介護においては、「使えるサービスを、遠慮なく使う」ことが、とくに重要だと考えられています。体力にも限りがあり、代わりを頼める家族が近くにいないことも多いためです。
| サービス | 老々介護において、とくに意味があること |
|---|---|
| 訪問介護(ホームヘルプ) | ヘルパーが自宅を訪れ、食事や入浴、排せつの介助、掃除や洗濯などの生活援助を行います。介護する側が体力的に難しい作業を、部分的にでも外部に任せられることが大きな意味を持ちます |
| デイサービス(通所介護) | 日中、施設に通って入浴・食事・機能訓練・レクリエーションなどを受けられます。介護されている本人にとっての刺激になるだけでなく、介護する側にとって「一人になれる時間」を作れるという意味があります。老々介護では、この「介護する側の休息時間」の確保がとくに重要だと指摘されています |
| ショートステイ(短期入所生活介護など) | 数日〜1週間程度、施設に宿泊して介護を受けられます。介護する側の体調不良、通院、冠婚葬祭、あるいは単純に休息のためなど、さまざまな理由で利用できます。「倒れる前に使う」ものとして、後述する⑧でも改めて触れます |
| 訪問看護 | 看護師などが自宅を訪問し、健康状態の確認や医療的なケアを行います。体調管理の面で、家族だけでは気づきにくい変化を早めに把握できることがあります |
| 訪問入浴介護 | 専用の浴槽を自宅に持ち込んで入浴の介助を行うサービスです。入浴介助は体力的な負担がとくに大きい場面なので、老々介護では選択肢として検討する価値があります |
「他人の手を借りるのは申し訳ない」「もう少し自分たちで頑張れる」という気持ちは、とても自然なものです。それでも、老々介護では、体力の低下は静かに進みます。気づいたときには、選べる選択肢が少なくなっていることもあります。使えるサービスがあることを知っておくだけでも、いざというときの判断が変わります。
一人暮らしの親を高齢のきょうだいや親族で見守っているような場合、使える在宅サービスの全体像を一人暮らしの親に使える在宅介護サービスまとめで確認しておくと、状況の整理に役立ちます。
⑥ 離れて暮らす子ども世代ができること
ここからは、離れて暮らすお子さん世代に向けて書きます。「高齢の親が、高齢の祖父母(またはもう一方の親)を介護している」——そのことを心配しながら、遠方から見守っている方は、決して少なくありません。
仕事、家庭、距離、経済的な事情など、頻繁に帰れない理由は、それぞれにあります。頻繁に帰れないことと、親のことを大切に思っていないことは、まったく別の話です。離れていてもできることは、たくさんあります。
- 定期的に連絡を取る——電話やビデオ通話でも構いません。「変化に気づく」うえで、定期的な会話は大きな役割を果たします。③で書いた気づきのきっかけも、多くは会話や電話の様子から見えてきます
- 地域包括支援センターに、家族として登録・相談しておく——本人が住んでいる地域の地域包括支援センターには、離れて暮らす家族からでも相談できます。「何かあったときの連絡先」として、事前に一度連絡を取っておくと、いざというときに動きやすくなります
- 見守りサービスを検討する——電気ポットやセンサーで生活状況を通知するサービス、緊急通報サービス、郵便局や新聞販売店などが行っている見守りサービスなど、さまざまな仕組みがあります。地域包括支援センターや市区町村の窓口で、地域で使えるものを教えてもらえます
- 帰省したときに、生活の様子を具体的に確認する——冷蔵庫の中身、薬の残り方、家の中の様子など、電話では分からないことが見えてきます
- きょうだいがいれば、情報を共有しておく——一人だけが状況を抱え込まないようにする工夫です
- 「介護保険の申請」について、選択肢として伝えておく——高齢の親どうしで介護をしている場合、本人たちが「まだ申請するほどではない」と思い込んでいることがあります。要介護認定を受けていないと、④・⑤で挙げたサービスの多くは使えません。「一度相談だけでもしてみたら」と伝えることは、責めることとは違います
相談先が分からない、何から手をつけていいか分からない、という場合は、介護の相談はどこにすればいい?無料で使える相談窓口まとめから確認してみてください。本人が動けなくても、家族から動き出すことができます。
⑦ 緊急時の備え
老々介護では、体力的にも判断力的にも、緊急時の対応が難しくなりやすいという現実があります。「いざというとき、どうするか」を、あらかじめ決めておくことが、家族の安心につながります。
救急要請の判断に迷ったとき
迷ったときのために、地域によっては「救急安心センター事業(局番なし#7119)」など、電話で相談できる窓口が用意されています。実施している地域とそうでない地域があるため、お住まいの地域で利用できるかどうかを、事前に確認しておくことをおすすめします。
明らかに命に関わる状態だと感じたときは、迷わず119番に連絡してください。「大げさかもしれない」とためらう時間が、いちばん危険です。
- 緊急連絡先を、複数の人と共有しておく——離れて暮らす子ども、きょうだい、ケアマネジャー、かかりつけ医の連絡先を、一覧にして分かりやすい場所に貼っておく。介護する側自身に何かあったときのためにも必要です
- お薬手帳や、これまでの病歴を、すぐに見せられる状態にしておく——救急搬送時に、本人がうまく説明できない場合でも役立ちます
- 鍵の預け先を決めておく——本人たちが倒れて中から鍵が開けられない、という事態を想定し、近隣の信頼できる方、地域包括支援センター、あるいは合鍵を預かってくれる警備会社のサービスなどを検討しておくという方法があります。どこまでの範囲で預けるかは、防犯面も考えて、家族で相談してください
- ケアマネジャーがいる場合は、緊急時の対応についても相談しておく——事業所によっては、緊急連絡網の中に含めてもらえることがあります
- 民生委員に、日ごろから顔を知っておいてもらう——⑪で詳しく書きますが、地域の見守りの仕組みとして、大きな意味を持ちます
⑧ 「介護する側が倒れたら」という不安との向き合い方
老々介護をしている方の多くが、心のどこかで抱えている不安があります。「自分が先に倒れたら、この人はどうなるのか」。
この不安は、なくなるものではないかもしれません。それでも、向き合い方はあります。
まだ介護保険サービスを利用していない場合は、まず地域包括支援センターに相談してみてください。「サービスを使うほどではないと思っていたが、自分が倒れたときのことが心配だ」と伝えるだけで、相談は始められます。
「倒れそうになってから使う」のではなく、「倒れないために、定期的に使う」ものとして位置づけられています。月に一度でも、数日だけでも、介護から完全に離れる時間を作ることが、結果的に介護を長く続けることにつながると考えられています。
「誰も助けてくれないのではないか」という不安は、多くの場合、実際の状況以上に大きく感じられます。事前に相談先を知っておくだけで、その不安は変わることがあります。
⑨ 経済的な視点|年金二人分での生活と介護費用
老々介護では、多くの場合、世帯の収入が年金を中心としたものになります。そこに介護費用が重なることへの不安は、決して小さくありません。
具体的な見通しについては、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の窓口、あるいは必要に応じてファイナンシャルプランナーなど専門家にご相談ください。
- 介護保険サービスの自己負担は、原則として費用の1〜3割です——所得によって負担割合が異なります。全額を自己負担するわけではありません
- 「高額介護サービス費」という制度があります——1か月の介護サービスの自己負担が一定の上限額を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みです。上限額は所得区分によって異なります
- 医療費と介護費が両方重なる世帯向けの制度もあります——「高額医療・高額介護合算療養費制度」など、医療と介護の自己負担を合算して軽減する仕組みがあります
- これらの制度の詳細や、実際に適用されるかどうかは、世帯の状況によって異なります——ケアマネジャーや市区町村の窓口、地域包括支援センターに確認すると、利用できる制度を案内してもらえます
お金の心配から、必要なサービスを使うことをためらってしまう方もいます。ですが、無理をして介護する側の心身が壊れてしまえば、結果的に別の形で大きな負担が生じることもあります。まずは相談し、使える制度を確認したうえで、判断することをおすすめします。
⑩ 施設入居という選択肢をどう考えるか
老々介護を続ける中で、施設入居という選択肢が頭をよぎることがあります。「片方だけが入居する」場合もあれば、「双方とも入居を考える」場合もあります。
- 片方だけが施設に入居する場合——たとえば、介護されている側の状態が進み、在宅での介護が体力的に難しくなってきた場合に検討されることがあります。残された側の生活や心のケアも、あわせて考える必要があります。一人になった後の見守りや、生活面の支援について、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談できます
- 双方とも施設への入居を考える場合——夫婦のどちらも介護を必要とする状態になってきた場合、同じ施設に入居できるかどうかは、施設の種類や空き状況によって異なります。「一緒に入りたい」という希望がある場合は、早めに複数の施設に確認しておくことをおすすめします
- 「介護する側」自身の状態も、判断材料になります——④〜③で触れたように、体力の低下や、認知機能の変化の可能性がある場合、在宅での介護を続けること自体が、双方にとって安全でなくなることがあります
ですが、選択肢を知っておくことと、実際に決めることは、別のことです。調べたからといって、必ず入居しなければならないわけではありません。知らないまま、介護する側もされる側も限界を迎えてしまうより、選択肢を知ったうえで在宅を続けると決めるほうが、ずっと安定した選択になります。
在宅介護の限界のサインについては在宅介護の限界サイン8つ|施設入居を考えるタイミングに、また、施設入居に対する罪悪感については、他の記事でも扱っています。いま考えるのがつらければ、この章は一度飛ばしていただいて構いません。
⑪ 地域の見守りネットワークと民生委員の役割
老々介護を、家族だけの問題として抱え込まないために、地域にはさまざまな見守りの仕組みがあります。その中心的な役割を担う一つが、「民生委員」という存在です。
- 高齢者や障がいのある方の世帯の見守り、安否確認
- 生活上のさまざまな相談への対応——介護、医療、経済的な心配ごとなど
- 行政や専門機関への「つなぎ役」——地域包括支援センターや市区町村の窓口につなぐ役割
- お住まいの地域を担当する民生委員は、市区町村の窓口や地域包括支援センターで教えてもらえます
- 民生委員から直接、あいさつに来てくれることもあります——高齢者のみの世帯を対象に、定期的な訪問や声かけを行っている地域もあります
- 離れて暮らす家族から、「見守りをお願いできますか」と相談することもできます——ただし、民生委員の活動範囲や関わり方は地域によって異なるため、まずは地域包括支援センターを通じて相談する形が一般的です
- 町内会・自治会による声かけ活動
- 社会福祉協議会が行う見守り・相談事業
- 新聞販売店、郵便局、電力・ガス会社などによる「さりげない見守り」協定——検針や配達の際に異変に気づいたら、自治体に連絡する仕組みなど
- 市区町村独自の緊急通報システムの貸与
「近所に迷惑をかけたくない」と、あえて距離を置いてしまう方もいます。ですが、老々介護においては、地域とのつながりそのものが、安全のための備えになります。民生委員や近隣との関係は、迷惑をかけるためのものではなく、お互いに支え合うための、社会の仕組みの一部です。
📌 まとめ
- 老々介護は、決して珍しい状況ではありません。2025(令和7)年の国民生活基礎調査では、同居で介護している世帯のうち61.9%が65歳以上同士、37.1%が75歳以上同士という結果が公表されています。恥ずかしいことでも、不運なことでもありません
- 負担が大きくなりやすい背景には、体力の低下、介護する側自身の心身の変化の可能性、社会的なつながりの少なさなどが重なりやすいことがあります
- 「認々介護」は診断名ではなく、状況を説明する言葉です。薬の管理ミス、同じ手続きの繰り返し、金銭管理の乱れなどは気づきのきっかけになりえますが、この記事や家族だけで判断せず、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください
- 体力面では、福祉用具や住宅改修を早めに取り入れることで、負担を大きく減らせることがあります
- 訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの公的サービスは、限界になってから使うものではなく、余裕があるうちから積極的に使うことが勧められています
- 離れて暮らす子ども世代は、頻繁に帰れなくても、定期的な連絡、地域包括支援センターへの事前相談、見守りサービスの検討など、できることがあります。「もっと帰るべき」という話ではありません
- 緊急時の備えとして、緊急連絡先の共有、鍵の預け先の検討、地域の救急相談窓口の確認などを、事前にしておくことが重要です
- 「自分が倒れたら」という不安は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに早めに伝えることで、備えにつなげられます。レスパイトケアは「倒れないために」定期的に使うものです
- 経済的な不安については、具体的な金額はこの記事では示しませんが、高額介護サービス費など負担を軽減する制度があります。まず相談することをおすすめします
- 施設入居は「見捨てること」ではなく、選択肢を知っておくこと自体に意味があります
- 民生委員をはじめとする地域の見守りネットワークは、老々介護を家族だけで抱え込まないための、社会の仕組みです
老々介護は、長年連れ添った配偶者どうし、あるいは長い年月を重ねてきた親子だからこそ、成り立ってきた関係の延長線上にあります。そこには、若い世代の介護とは違う、積み重ねてきた信頼や、言葉にしなくても分かり合える部分があるはずです。
それでも、体力にも、判断力にも、限りがあります。それは弱さではなく、誰にでも訪れる自然なことです。「まだ自分たちで」と抱え込む前に、使える支援があることを知っておいてください。
そして、離れて暮らすご家族へ。心配しながらも、頻繁には帰れない自分を責める必要はありません。電話一本、地域包括支援センターへの一本の連絡が、離れた場所からできる、確かな支えになります。
老々介護を、誰か一人だけ、あるいは一組の夫婦だけで抱えないでください。それが、この記事でいちばんお伝えしたかったことです。
この記事では、医学的な診断や判断はいっさいしていません。とくに「認々介護」に関する記述は、気づきのきっかけの紹介であり、診断ではありません。気になる様子があれば、かかりつけ医や地域包括支援センターにご相談ください。
統計の数値は調査年によって変動します。本文中の数値は出典・調査年を明記していますが、次回以降の調査で変わる可能性があります。最新の数値は厚生労働省の公表資料でご確認ください。
金額について、具体的な数字は示していません。世帯の状況によって大きく異なるため、具体的な見通しはケアマネジャーや自治体窓口、専門家にご相談ください。
各章で紹介した相談先・制度・仕組みの名称、実施状況、対象範囲は、自治体や事業所によって異なることがあります。最新の情報は、お住まいの市区町村、地域包括支援センター、各機関の公式サイトでご確認ください。
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」(2026年7月公表)——同居の主な介護者と要介護者等がともに65歳以上である「老々介護」の割合(61.9%)、ともに75歳以上である割合(37.1%)、主な介護者の続柄(配偶者22.5%、子18.2%、子の配偶者4.2%)、要介護者等と主な介護者の同居割合(46.1%)、介護が必要となった主な原因のうち認知症が最多(16.7%)であることについて。数値は本調査時点のものであり、次回調査で変わる可能性があります
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」——比較のための参考として、同年の老々介護(65歳以上同士)63.5%、75歳以上同士35.7%という数値を、調査年を明記したうえで紹介しています
- 老々介護・認々介護に関する、地域限定の調査研究——老々介護世帯の一部において、介護者側にも認知機能低下が疑われる状態がみられたとする報告があることについて。これは特定の地域を対象とした調査であり、全国的な公式統計ではないことを明記したうえで、慎重に紹介しています
- 全国民生委員児童委員連合会・厚生労働省の公表情報——民生委員・児童委員の制度概要(厚生労働大臣からの委嘱、全国で約23万人が活動、任期3年・無給のボランティアであること)、高齢者の見守り・安否確認、相談・つなぎ役としての役割について
- 地域包括支援センターに関する厚生労働省・市区町村の公表情報——市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口であること、家族だけでの相談が可能であること、介護保険の手続きや各種サービス・地域の見守りの仕組みの案内を行っていることについて
- 介護保険制度における福祉用具貸与・住宅改修、高額介護サービス費、高額医療・高額介護合算療養費制度に関する公表情報——制度の枠組みについて。自己負担割合や上限額は所得区分等により異なるため、具体的な金額はこの記事では示していません
- 市区町村による「見守り・SOSネットワーク」等の取り組みに関する公表情報——事前登録の仕組み、緊急通報システムの貸与、事業者との見守り協定などについて。名称・内容・実施の有無は自治体によって大きく異なります