親の運転免許の返納|
どう切り出すか、返したあとの足をどうするか

サイト管理人
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祖父母の施設入居・父親の入院と緩和ケアを経験。実体験をもとに情報をお届けします。
車庫入れに、前より時間がかかるようになった気がする。助手席に乗っていて、ヒヤッとする瞬間が増えた。それでも、「もう運転はやめたら」の一言が、どうしても言えません。
言えば、きっと怒る。プライドを傷つける。何より、車がないと買い物にも病院にも行けない地域に、親は住んでいるかもしれません。都市部で電車やバスが便利な場所ばかりではないのです。
この記事は、そういう難しさを抱えている家族のために書きました。運転をやめさせることを目的にした記事ではありません。「返納」という言葉の実際、制度の大枠、そして何より「返したあとの足をどう用意するか」まで、順番に整理していきます。
先に、この記事の立場を書いておきます。親を「説得すべき対象」としては描きません。運転は、単なる移動手段ではなく、自立や役割そのものであることが多いからです。それを取り上げるという話を、軽く扱うつもりはありません。
⚠️ はじめにお読みください
この記事は、警察庁・国土交通省・厚生労働省などが公表している一般的な情報(2026年8月時点)をもとにまとめたものです。

この記事に、医学的な診断はいっさい含まれていません。「運転が心配になるサイン」として紹介する内容は、あくまで一般に語られていることであり、認知症や特定の病気を判定するチェックリストではありません。心配な様子があれば、必ずかかりつけの医師にご相談ください。

制度の細部(検査の内容、手数料、更新の流れ、特典の中身など)は変更されることがあり、地域によっても運用が異なります。正確な情報は、警察庁・お住まいの都道府県警察・運転免許センター・市区町村の窓口で必ずご確認ください。

高齢ドライバーを一括りに「危険」として扱うことは、この記事ではしません。年齢だけで運転の可否を判断する話ではないと考えています。

特定の家庭の事例は、実在のものも、たとえ話として作ったものも、いっさい書いていません。

① 「返納させたい」の前に——なぜこの話は揉めるのか

親の運転に不安を感じ始めた子どもが、最初にぶつかる壁があります。「言ったら、関係が壊れるかもしれない」という壁です。

なぜ、この話はこれほど揉めるのでしょうか。理由は、運転が単なる移動の手段ではないからだと考えられます。

🚗 運転が持っている意味
  • 自立の証——自分の足で、自分の判断で、行きたい場所に行ける。それは「まだ一人でやっていける」という感覚そのものです
  • 役割——買い物に行く、孫を送り迎えする、地域の集まりに顔を出す。運転は、家庭や地域の中での役割を支えていることがあります
  • 生活の土台——公共交通機関が乏しい地域では、運転免許がないと、通院も買い物も成り立たないことがあります
  • アイデンティティ——何十年も運転してきた人にとって、それは自分の一部です。「危ないから取り上げる」という言い方は、その人の人生の一部を取り上げる話に近く受け止められることがあります

つまり、子どもが「安全のために」と思って切り出す一言が、親にとっては「自立を取り上げられる」「役割を奪われる」「もう一人前ではないと言われた」という受け止め方になることがある、ということです。ここがずれたまま話をすると、正論をぶつけても伝わりません。

⚠️ この記事が前提にしていること
返納を、絶対の正解として押しつけるつもりはありません。一方で、危険を感じながら何もしないことを勧めるつもりもありません。

この記事が一貫して立つ位置は、「返納するかどうか」と「返したあとの生活をどう支えるか」は、セットで考えるべきだということです。「危ないからやめて」と言うだけで、代わりの足を用意しないのは、酷なことだと思います。この視点は、記事全体を通して崩しません。

老人ホームへの入居を嫌がる親との向き合い方について、老人ホームの入居を嫌がる親の説得方法【家族の立場から考える】にもまとめていますが、そこでも書いたとおり、「説得して、こちらの意見に従わせる」という発想そのものが、うまくいかないことが多いという共通点があります。運転免許の話も同じです。

「危ないから」だけでは、地域によって成立しない話でもある

もうひとつ、都市部で暮らす子どもが見落としがちな点があります。それは、車がないと生活が成り立たない地域が、日本にはたくさんある、ということです。

電車の駅が遠い。バスは1日に数本しかない。最寄りのスーパーや病院まで、歩いていける距離ではない——こうした地域で暮らす親にとって、「運転をやめる」は、「移動しない生活に入る」とほぼ同じ意味になってしまうことがあります。

だからこそ、この記事では「危ないからやめて」だけで終わる話にはしません。「やめたあと、どう移動するのか」までを、返納の話とセットで考える必要があります。この視点は、⑦で詳しく扱います。

② 気になるサインとして語られていること

「なんとなく心配」を、もう少し具体的に言葉にしてみたい——そう感じている方のために、一般に「気になるサイン」として語られている内容を紹介します。

⚠️ 先にお伝えします。これは診断のチェックリストではありません
これから挙げる項目は、日常のさまざまな場面で「気になる」と語られがちなものを並べたものであり、認知症や特定の病気を判定する基準ではありません。いくつ当てはまるかで何かが決まるものでもありません。

加齢による反応速度の変化、疲れ、体調、視力や聴力の変化、服用している薬の影響など、原因はさまざまです。そして、年齢を重ねても運転に不安のない方は、たくさんいます。年齢だけで判断しないでください。
👀 一般に語られていること(あくまで一例です)
  • 車体に、以前はなかった傷やへこみが増えた
  • 車庫入れや駐車に、時間がかかるようになった
  • 同乗していて、ヒヤッとする場面が増えたと感じる
  • よく知っているはずの道で、道を間違えることがある
  • 信号や標識を、見落とすことがある
  • 車間距離の詰め方や、ブレーキのタイミングが、以前と違う気がする
  • 運転中に、混乱したり、イライラしたりする様子がある
  • アクセルとブレーキを、踏み間違えそうになったという話を本人がする

大事なのは、「これに当てはまるから危険」ではなく、「これをきっかけに、家族で話す機会を持つ」という使い方です。ひとつ当てはまったからといって、すぐに免許を取り上げるべきだという話にはなりません。

逆に、こうしたサインがまったくなくても、本人自身が「最近ちょっと自信がない」と漏らすことがあります。その言葉は、外から見た様子よりも、ずっと大事な手がかりかもしれません。

もし、運転以外の場面でも「あれ?」と思うことが重なっているようであれば、認知症の症状への向き合い方|「本人にとって理由のある行動」として考えるもあわせて読んでみてください。ただし、そちらの記事でも診断はしていません。気になる様子があれば、家族だけで判断せず、かかりつけの医師にご相談ください。

③ 高齢者の運転をめぐる制度

「そもそも、高齢になったら何か検査があるはず」——そう聞いたことがある方も多いと思います。ここでは、制度の名称と大枠だけを紹介します。細かい内容や最新の運用は、必ず警察庁・お住まいの都道府県警察・運転免許センターでご確認ください。

📘 75歳以上の方に関わる主な制度(大枠)
  • 認知機能検査——免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の方は、更新のたびに受けることになっています。「手がかり再生」(イラストを記憶して答える)と「時間の見当識」(検査時の年月日・曜日・時間を答える)という項目で構成されているとされます
  • 高齢者講習——認知機能検査とあわせて受講するもので、座学・運転適性検査・実車指導などで構成されるとされます
  • 運転技能検査——75歳以上で、更新前の一定期間に信号無視や速度超過などの一定の違反があった方が対象とされ、実際にコースを運転して行う検査に合格しないと更新できない、とされています
  • 臨時認知機能検査・臨時高齢者講習——75歳以上の方が、更新の時期を待たず、一定の違反行為をした場合に受けることになる検査・講習があるとされています
⚠️ 数字や手続きの細部は、ここでは書ききれません
検査の合格基準、対象となる違反の種類、手数料、講習の時間、免除される場合など、細かい条件は制度改正でたびたび見直されています。この記事で中途半端な数字を書いて、それが古くなっていたら、かえって混乱を招きます。

正確な内容は、警察庁のウェブサイト、またはお住まいの都道府県警察・運転免許センターの案内で、必ず確認してください。更新通知が届いたときに、同封の案内をよく読むことも大切です。

検査の結果、どうなるのか

認知機能検査で「認知機能が低下しているおそれがある」とされた場合、専門医による診察(臨時適性検査)を受けるか、医師の診断書を提出するという流れがあるとされています。そこで医師が「認知症」と診断した場合には、免許の取消しや効力の停止につながる手続きに進むことがあると説明されています。

ここで大事なのは、判定するのは家族でも警察官でもなく、医師だということです。制度そのものが、家族の目分量ではなく、専門的な診察を経る仕組みになっている、という点は知っておいて損はありません。

制度 大枠として説明されていること
認知機能検査 75歳以上の方が免許を更新するたびに受ける検査。記憶力・見当識に関する項目で構成されるとされます。結果によって、その後の対応が分かれます
高齢者講習 認知機能検査とあわせて受ける講習。座学・運転適性検査・実車指導などで構成されるとされ、保有している免許の種類によって、講習の内容や時間が異なるとされています
運転技能検査 75歳以上で、更新前の一定期間に対象となる違反があった方が受ける、実車での検査。合格しないと更新できないとされています。何度か受け直せる場合があるとされますが、詳細は運転免許センターに確認が必要です
臨時認知機能検査・臨時高齢者講習 更新の時期を待たず、一定の違反行為があったときに実施されるとされる検査・講習です。日常の運転の中で、こうした形で制度に触れる場合があります

サポートカー限定免許という選択肢

運転をすべてやめるのではなく、「安全運転を支援する装置がついた車に限定して運転を続ける」という制度が用意されています。「サポートカー限定免許」と呼ばれるもので、令和4年5月13日から始まった比較的新しい制度です。普通免許を持つ方が対象で、年齢に関わらず申請できるとされています。全部をやめる・やめないの二択ではなく、間の選択肢があることは、話し合いの材料として知っておく価値があります。対象となる車の条件や手続きの詳細は、運転免許センターにご確認ください。

④ 「返納」という言葉の実際

「返納」という言葉は広く使われていますが、正式には「申請による運転免許の取消し」という手続きです。運転免許証を、警察に自分の意思で返す(取消しを申請する)ことを指します。

📗 知っておきたいポイント
  • 全部返す必要はない場合があります——複数の種類の免許(普通・大型・二輪など)を持っている場合、一部の種類だけを返す「一部取消し」という手続きがあるとされています。たとえば大型免許だけを返し、普通免許は残す、といったことができる場合があります
  • 手続きの窓口——一般的に、運転免許センターや警察署で手続きができるとされています
  • 代理での手続き——返納の手続き自体は、事情により代理人が行えるとされる場合がありますが、次に説明する運転経歴証明書の申請は、原則として本人が行う必要があるとされています
「全部か、ゼロか」ではない選択肢があることは、話し合いの前に知っておくと助けになります。細かい条件は自治体・警察署によって案内が異なることがあるため、事前に問い合わせておくと安心です。

そして、繰り返しになりますが、返納は強制されるものではなく、あくまで本人の申請によるものです。次の⑤・⑥・⑦で、返納後に使える証明書や支援、そして最も大事な「足の確保」について、順番に見ていきます。

⑤ 運転経歴証明書について

「免許証を返したら、身分証明書がなくなってしまう」——これは、返納をためらう理由としてよく挙げられます。この不安に対応するのが、「運転経歴証明書」です。

🪪 運転経歴証明書とは
  • 運転免許証を自主返納した方、または免許を更新せず失効させた方が、申請すれば交付を受けられる証明書です
  • 平成24年4月1日以降に交付されたものは、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えるとされています(一部、対応していない機関もあるとされています)
  • 自主返納した日、または免許が失効した日から一定期間(5年)を過ぎると、交付を受けられなくなるとされています
  • 交付の申請は、本人が行う必要があるとされています
⚠️ 手数料・交付までの期間は、窓口でご確認を
手数料や交付までにかかる日数は、時期や自治体によって案内が変わることがあります。返納の手続きをする際、窓口で運転経歴証明書についても一緒に相談すると、二度手間になりません。返納と同時に申請できる場合が多いとされていますが、念のため事前に確認しておくと安心です。

「身分証明書がなくなるから返さない」という心配は、この運転経歴証明書があることを知るだけで、かなり和らぐことがあります。切り出す前に、まずこの情報を親に伝えておくのも一つの方法です。

⑥ 自治体や事業者による支援・特典

運転経歴証明書を提示すると、バスやタクシーの運賃割引、商品券の交付、施設の入館料割引など、さまざまな特典が受けられる場合があります。「高齢者運転免許自主返納サポート」といった名称の取り組みを、自治体や商工会議所、地元企業などが行っていることがあります。

⚠️ ここは、地域差がとても大きい分野です
特典の有無、内容、対象となる期間は、お住まいの自治体・地域によってまったく異なります。都市部では手厚い制度がある一方、地域によっては特に特典が用意されていないこともあります。

「うちの地元にはこういう特典がある」という話をインターネットやニュースで見かけても、それが自分の地域に当てはまるとは限りません。必ず、お住まいの市区町村の窓口、または警察署・運転免許センターで、最新の情報をご確認ください。制度が終了していたり、内容が変わっていたりすることもあります。

特典があるかどうかで返納を決めるものではありませんが、知っておくと、話し合いの後押しになることがあります。「返したら終わり」ではなく、「返した後も使えるものがある」と伝えられると、印象が変わることがあります。

⑦ 返納したあとの「足」をどうするか

ここが、この記事でいちばん大事にしたい部分です。「危ないからやめて」と言うだけで、代わりの足を用意しないのは、酷なことだと思います。免許を返すという決断は、生活の土台を変える決断でもあります。だからこそ、返納の話をする前に、あるいは同時に、代わりの移動手段を具体的に調べておくことをおすすめします。

まず、全体像をつかんでおきましょう。返納後の移動手段は、大きく分けて「地域の公共交通」「介護保険を使えるサービス」「介護保険の枠外のサービス」「家族による送迎」「そもそも出かけずに済む工夫」の5つに整理できます。それぞれ、使える条件や申し込み先の目安が異なります。

選択肢 どんな人が使えるか(目安) まず相談する先の目安
コミュニティバス・デマンド交通 基本的に地域住民なら誰でも。要介護認定は問いません 市区町村の交通担当課
通院等乗降介助(介護保険) 要介護1〜5の認定を受けている方 担当のケアマネジャー
福祉有償運送 要介護・障害等の要件を満たし、事前に会員登録した方 地域包括支援センター・社会福祉協議会
介護タクシー・一般タクシー 要件は問わないことが多い(実費) 地元のタクシー事業者
家族による送迎 頼める家族がいる場合 家族間での話し合い

この表はあくまで「相談の入り口を絞り込むための目安」です。実際に使えるかどうか、料金の目安、予約の方法は、地域や状況によって大きく異なります。以下、それぞれをもう少し詳しく見ていきます。

🚌 地域の公共交通・移動サービス
  • 路線バス・コミュニティバス——決まったルートを、決まった時刻に運行するもの。自治体が運営・補助している場合があります
  • デマンド型交通(デマンド交通)——電話などで事前に乗車場所や時刻を予約し、予約状況に応じて運行するタイプの公共交通です。決まったルートを走るコミュニティバスとは異なり、予約に応じて柔軟に運行するのが特徴とされています。区域運行型・迂回ルート型など、地域によって方式が異なります
  • 乗合タクシー——複数人で乗り合わせる形のタクシーで、デマンド型交通の一種として運行されていることがあります
こうしたサービスがあるかどうか、どこで予約するかは、地域によって大きく異なります。お住まいの市区町村の高齢福祉担当課、または地域包括支援センターに問い合わせると、地域の交通サービス一覧を教えてもらえることがあります。
🏥 介護保険を使える場合——通院等乗降介助
すでに要介護認定を受けている方(要介護1以上)であれば、訪問介護の「通院等乗降介助」という介護保険サービスを利用できる場合があります。

  • ヘルパーが自宅から車まで、車から病院の受付までなど、乗り降りとそれに伴う移動の介助を行うサービスです
  • 介護タクシーの許可を持つ事業者が提供していることが多いとされています
  • 対象となるのは要介護1〜5の認定を受けている方で、要支援の方や自立の方は対象外とされる場合があります
利用できるかどうか、費用の目安は、担当のケアマネジャーに相談するのがいちばん確実です。まだ要介護認定を受けていない場合は、介護保険とは?仕組み・使い方を初めての人向けにわかりやすく解説もあわせてご覧ください。
🚕 介護保険の枠に入らない移動手段
  • 福祉有償運送——NPO法人など、国土交通省の登録を受けた団体が、要介護者や障害のある方などの会員に対して、実費の範囲内で個別に送迎を行う制度です。タクシーより低い料金で使えることがある一方、利用にはあらかじめ会員登録が必要とされています。地域にこうした団体があるかは、地域包括支援センターや社会福祉協議会で確認できます
  • 介護タクシー——介護保険を使わず、実費で利用する送迎サービスです。介護保険の通院等乗降介助と混同されやすいですが、保険適用の有無や料金体系が異なるため、利用の際は事業者に確認が必要です
  • 一般のタクシー——高齢者向けの割引やチケット制度を設けている自治体・タクシー会社もあります
🚗 家族による送迎
家族が送迎を担うことも、もちろん選択肢のひとつです。ただし、いくつか気をつけたい点があります。

  • 一人だけに負担が集中しないよう、家族で分担を決めておく——送迎を頼める人が近くに一人しかいないと、その人が倒れたときに立ち行かなくなります
  • 「頼めば送ってもらえる」が、本人にとって申し訳なさの原因になることがある——毎回頼むことへの気兼ねから、外出そのものを控えてしまう場合があります。定期的な通院日など、あらかじめ決まった予定は仕組み化しておくと、双方の負担が減ります
  • 離れて暮らす家族の場合は、遠距離で親の施設を探すには?離れて暮らす家族の老人ホーム選びでも触れているように、近くに住むきょうだいや親戚、地域の福祉サービスと役割を分けて考えることが現実的です
🛒 「出かけずに済む」選択肢も用意しておく
移動手段を用意しても、すべての外出を代替できるとは限りません。特に買い物や食事の準備は、次のような方法で負担を減らせることがあります。
  • 食材・お弁当の宅配サービス——生活協同組合の個配、民間の食材宅配、配食サービスなど
  • ネットスーパーなどの宅配——本人がインターネット操作に不安がある場合は、家族が代理で注文する方法もあります
  • 移動販売——地域によっては、決まった曜日・時間に販売車が巡回している場合があります
一人暮らしの親に使える在宅サービス全般については、一人暮らしの親に使える在宅介護サービスまとめにも整理しています。移動手段とあわせて検討すると、生活全体の見通しが立てやすくなります。
⚠️ 「代わりの足」は、一度で完璧にそろえなくていい
すべての交通手段や制度を、返納前に完璧に調べ上げる必要はありません。大切なのは、「何もない」という状態で返納を切り出さないことです。「通院はこの制度が使えそう」「買い物は宅配を試してみよう」——ひとつかふたつ、目星がついているだけでも、話し合いの空気は変わります。

実際に使ってみてから、合う・合わないを見直していくくらいの気持ちで、まずは調べるところから始めてみてください。

⑧ どう切り出すか

制度と代わりの足の見通しがついたら、次は「どう伝えるか」です。ここでのつまずき方は、多くの家庭で似ています。

💬 語られている工夫
  • 責めるところから入らない——「危ないからやめて」ではなく、「最近、運転どう?疲れない?」など、様子をたずねる言い方から始める
  • 一度で決めようとしない——一回の会話で結論を出そうとすると、対立しやすくなります。「今日は考えてみてほしい、というだけの話」にとどめる回もあっていいはずです
  • 自分の話や、第三者の話から入る——「私も最近、運転が怖いと思う瞬間があって」「近所の〇〇さんも、最近運転をやめたらしいよ」など、本人だけを名指ししない入り方が、身構えさせにくいと言われます
  • 医師や警察からの話として伝えてもらう——家族の言葉より、かかりつけ医や運転免許センターの案内、更新時の講習での説明のほうが、素直に受け止められることがあります。健康診断や免許更新のタイミングに合わせるのも一つの方法です
  • 「取り上げる」ではなく「一緒に考える」という姿勢を見せる——代わりの足の情報を、責める材料としてではなく、一緒に選ぶ材料として渡す

老人ホームの話し合いと同様、老人ホームの入居を嫌がる親の説得方法【家族の立場から考える】でも触れているとおり、「今すぐ結論を出す」ことにこだわらないほうが、結果的にうまくいくことが多いようです。運転免許の話も、時間をかけていい話し合いです。

⑨ 言ってはいけない言い方

良かれと思って口にした言葉が、かえって話し合いを難しくすることがあります。

⚠️ 避けたほうがいいと言われている言い方
  • 「危ないからやめて」——正論ですが、本人にとっては「あなたの運転は危険だ」という評価そのものとして届きます。反発を招きやすい言い方です
  • 「事故ったらどうするの」——不安をあおる言い方は、本人を追い詰めるだけで、行動の変化にはつながりにくいとされます
  • 「もう歳なんだから」——年齢を理由にすると、本人の尊厳を傷つけやすく、しかも実際の運転能力とは必ずしも一致しません
  • 「みんな心配してる」——本人の知らないところで話が進んでいたと感じさせ、不信感につながることがあります

なぜ、こうした正論が届かないのでしょうか。それは、①で書いたとおり、本人にとって運転は「安全か危険か」という損得の話だけではなく、自立や誇りに関わる話だからだと考えられます。正しさで説得しようとすればするほど、本人は守りに入ってしまう——そう理解しておくと、伝え方の工夫がしやすくなります。

⑩ 親が頑として応じないとき

丁寧に伝えても、親が返納に応じないことがあります。ここで、はっきりさせておきたいことがあります。

⚠️ 家族に、運転をやめさせる強制力はありません
本人の意思に反して、家族が免許を取り上げることはできません。免許の取消しや停止といった強制的な措置は、法律に基づいて公安委員会が行うものであり、家族が独自に決められることではありません。

だからといって、家族に何もできることがない、というわけではありません。
🌱 応じてもらえない間に、できること
  • 同乗して、実際の運転を確認する——伝聞ではなく、実際に隣に乗って様子を見ることで、状況を具体的に把握できます
  • 運転する範囲を、一緒に決める——「夜間は運転しない」「高速道路は使わない」「遠出はしない」など、条件をすり合わせる方法があります。全部か無かではない、中間の合意点を探る考え方です
  • 車を買い替えるタイミングで、見直す——次の車検や買い替えの時期を、話し合いの節目にする家庭もあります
  • サポートカーへの乗り換えを検討する——③で紹介した「サポートカー限定免許」や、安全運転支援機能のついた車への乗り換えも選択肢です
  • 家族で情報を共有しておく——同居していない家族とも、気になる様子や話し合いの経過を共有しておくと、いざというときに一人で抱え込まずに済みます。遠方に住むきょうだいがいる場合は、遠距離で親の施設を探すには?離れて暮らす家族の老人ホーム選びにある考え方も参考になります

「今日、答えが出なかった」ことを、失敗だと思わないでください。時間をかけて、少しずつ条件をすり合わせていくプロセスそのものが、意味を持つことがあります。

⑪ どうしても危険だと感じるとき

それでも、「これは家族だけでは抱えきれない」と感じる場面があるかもしれません。そのときは、一人で、あるいは家族だけで悩み続けず、外の窓口に相談してください。

相談先 どんなところか
かかりつけ医 本人の体調や病気の状態を知っている医師は、運転の可否について、家族よりも踏み込んだ話ができる立場にあります。診察や健康診断のタイミングで、家族から先に「運転について気になっている」と伝えておく方法もあります
地域包括支援センター 市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。運転そのものを扱う機関ではありませんが、生活全体の相談窓口として、移動手段や医療につなぐ相談ができます。本人が同席しなくても、家族だけで相談できます
警察の安全運転相談窓口(#8080) 高齢ドライバー本人やその家族が、運転に関する不安や悩みを相談できる、全国共通の専用ダイヤルです。平日の日中に受け付けているとされ、相談内容に応じて医療機関の案内や、手続きの案内が受けられるとされています。受付時間や対応内容は変更されることがあるため、事前に確認してください
警察相談専用電話(#9110) 事件や事故には至っていないけれど、警察に相談したいことがあるときに使える、全国共通の電話番号です。平日の日中の受付が基本とされ、地域によって時間や対応が異なるとされています。緊急の場合は迷わず110番を使ってください
運転免許センターの窓口 制度や手続きそのものについて、直接確認できる窓口です。更新のタイミングでなくても、相談だけで訪ねることができる場合があります
⚠️ 電話番号・受付時間は変更されることがあります
ここに挙げた窓口の電話番号・受付時間・対応内容は、本記事執筆時点(2026年8月)で公表されている一般的な情報をもとにしています。変更されることがあるため、利用の際は警察庁や都道府県警察のウェブサイトで最新の情報をご確認ください。

相談窓口の全体像については、介護の相談はどこにすればいい?無料で使える相談窓口まとめにもまとめています。「何を相談したらいいか分からない」という段階でも、電話をかけて構いません。状況を整理するところから、相談員が手伝ってくれます。

⑫ 認知症が疑われる場合について

運転の様子が気になる背景に、「もしかして認知症では」という不安を抱えている方もいると思います。ここで、はっきりお伝えしておきたいことがあります。

⚠️ 家族に、診断はできません
運転の様子や、日常のちょっとした変化から、家族が「これは認知症だ」と判断することはできませんし、してはいけません。似たような様子が、認知症以外の原因(体調、薬の影響、疲労、視力や聴力の変化など)から起きていることもあります。

気になる様子があれば、まずはかかりつけ医に相談することが第一歩です。③で書いたとおり、免許の更新に関わる認知機能検査でも、最終的に判断するのは医師です。家族が先回りして結論を出す必要はありません。

認知症の症状そのものについて詳しく知りたい場合は、認知症の症状への向き合い方|「本人にとって理由のある行動」として考えるもあわせてご覧ください。そちらの記事でも、診断や進行の予測はしていません。気になる様子があれば、かかりつけ医、もの忘れ外来などの医療機関、地域包括支援センターに相談することをおすすめしています。

⑬ 返納したあとに起きうること

返納が実現すると、それで一区切りついたように感じます。けれど、ここからが、実は本題です。

🍃 起こりうる変化として、語られていること
  • 外出そのものが減る——代わりの足を用意していても、車で気軽に出かけていたときと同じようには動けなくなることがあります
  • 気持ちが落ち込むことがある——自分でできていたことができなくなった、という感覚は、思った以上に本人の気持ちに影響することがあります
  • 人と会う機会が減る——友人との集まりや趣味の場に、足が遠のくことがあります
  • 体を動かす機会が減る——歩く距離が減ることで、体力面への影響が語られることもあります
⚠️ 返納は、ゴールではありません
返納そのものを目的にしてしまうと、返した後に起きる変化への備えが手薄になりがちです。この記事の⑦で紹介した「足の確保」は、返納前に一度決めて終わりではなく、返納後の暮らしの様子を見ながら、継続的に見直していくものだと考えてください。

「思ったより外出しなくなった」「デイサービスに誘ってみようか」「もう少し送迎の頻度を増やそうか」——返納後の暮らしをどう保つかが、本当の意味でのテーマです。在宅での暮らし全体に不安が出てきた場合は、在宅介護の限界サイン8つ|施設入居を考えるタイミングも、いずれ参考になるかもしれません。今すぐ関係する話ではなくても、知っておくと安心材料になります。

返納は、「危険を減らす」という意味では一つの区切りになりますが、「暮らしをどう保つか」という意味では、そこからが本番です。免許を返した後も、その人らしい生活が続けられるように——それが、この記事を通してお伝えしたかったことです。

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📌 まとめ

  • 運転は単なる移動手段ではなく、自立や役割そのものであることが多いため、「返納させたい」という話は揉めやすいものです。取り上げる話として軽く扱わないことが出発点です
  • 気になるサイン(車体の傷、車庫入れに時間がかかる等)は、一般に語られている一例であり、診断のチェックリストではありません。気になる様子があれば、家族だけで判断せずかかりつけ医へ
  • 75歳以上には認知機能検査・高齢者講習・(一定の違反がある場合の)運転技能検査といった制度があります。細部は変更されうるため、正確な内容は警察庁・運転免許センターで確認を
  • 「返納」は正式には「申請による運転免許の取消し」です。全部でなく、一部の種類の免許だけを返す「一部取消し」ができる場合があります
  • 運転経歴証明書は、返納後も身分証明書として使える場合があります。「返したら身分証がなくなる」という不安への備えになります
  • 自治体や事業者による割引・特典は、地域差が非常に大きい分野です。お住まいの自治体・警察署で必ず確認してください
  • 最も大切なのは、返したあとの「足」をどうするかです。コミュニティバス、デマンド型交通、乗合タクシー、介護保険の通院等乗降介助、福祉有償運送、介護タクシー、家族の送迎、買い物や食事の宅配——「危ないからやめて」と言うだけで代わりの足を用意しないのは酷です
  • 切り出し方は、責めない・一度で決めない・自分や第三者の話から入る・医師や警察の話として伝えてもらう、といった工夫が語られています
  • 「危ないからやめて」「事故ったらどうするの」といった正論は、届きにくいとされています。本人にとっては自立や誇りに関わる話だからです
  • 家族に、運転をやめさせる強制力はありません。できることは、同乗して確認する、運転する範囲を一緒に決める、車を買い替えない、サポートカーを検討する、家族で情報を共有することです
  • どうしても危険だと感じるときは、家族だけで抱えないでください。かかりつけ医、地域包括支援センター、警察の安全運転相談窓口(#8080)、警察相談専用電話(#9110)、運転免許センターに相談できます
  • 認知症が疑われる場合も、家族が診断することはできません。気になる様子があれば、まず医師への相談を第一に
  • 返納はゴールではありません。外出が減る、気持ちが落ち込むことがある——返納後の暮らしをどう保つかこそが、本当のテーマです

この記事を読んでいるあなたは、おそらく親のことを大事に思っているからこそ、言い出せずにいるのだと思います。それは、決して優柔不断なことではありません。運転という、自立や誇りに関わる話を、簡単に扱わないでいることの表れだと、この記事は考えています。

答えを急ぐ必要はありません。制度を調べる、代わりの足を一つ二つ調べておく、話すタイミングを見計らう——そうした準備そのものが、すでに親への配慮です。そして、どうしても難しいと感じたときは、一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、外の窓口を頼ってください。

⚠️ この記事について
この記事は、警察庁・国土交通省・厚生労働省などが公表している一般的な情報(2026年8月時点)をもとにまとめたものです。特定の家庭の事例は、実在のものも、たとえ話として作ったものも記載していません。
この記事では、医学的な診断はいっさいしていません。気になるサインとして紹介した内容は、一般に語られていることであり、診断の基準ではありません。心配な様子があれば、かかりつけ医にご相談ください。
制度・手続きの細部(検査の内容、手数料、更新の流れ、対象となる違反、特典の内容など)は変更されることがあり、地域による違いもあります。正確な内容は、警察庁のウェブサイト、お住まいの都道府県警察・運転免許センター、市区町村の窓口で必ずご確認ください。
相談窓口の名称・電話番号・受付時間は変更されることがあります。最新の情報は、各機関の公式サイトでご確認ください。
この記事は、高齢ドライバーを一括りに危険視するものではありません。年齢だけで運転の可否を判断する内容ではなく、また特定の自動車メーカー・車種・民間サービスを推奨するものでもありません。
📚 この記事で参考にした情報
  • 警察庁ウェブサイトが公表している、高齢運転者対策に関する解説——認知機能検査(75歳以上を対象に免許更新時に実施、「手がかり再生」「時間の見当識」の2項目で構成、結果によって臨時適性検査や医師の診断書提出につながる場合があること)、高齢者講習の位置づけ、運転技能検査(一定の違反歴がある75歳以上の方が対象となる、実車による検査であること)、臨時認知機能検査・臨時高齢者講習(一定の違反行為があった場合に更新時期を待たず実施されうること)について。合格基準・対象となる違反の詳細・手数料等は、制度改正により変更されるため要約にとどめています
  • 警察庁ウェブサイト「運転免許証の自主返納について」——自主返納(申請による運転免許の取消し)の趣旨、運転経歴証明書の交付対象・要件(返納または失効から一定期間内であること等)、平成24年4月1日以降交付分が本人確認書類として使える場合があることについて
  • 都道府県警察(警視庁等)が公表している、自主返納・運転経歴証明書に関する案内——一部の種類の免許のみを返納できる「一部取消し」の仕組み、運転経歴証明書の申請が原則本人によること、返納後の特典(高齢者運転免許自主返納サポート等)が地域の協議会・事業者によって提供されている場合があることについて。特典の内容・実施の有無は地域差が大きいため、詳細は割愛しています
  • 警察庁が公表している、サポートカー限定免許制度(令和4年5月13日施行)に関する案内——安全運転を支援する装置のついた車両に限定して運転を続けられる制度であること、普通免許を対象とし年齢要件がないことについて
  • 警察庁が公表している、安全運転相談窓口(#8080)に関する案内——高齢ドライバー本人や家族が運転に関する不安を相談できる全国共通ダイヤルであること、相談内容に応じて医療機関等の案内が行われる場合があることについて
  • 警察相談専用電話(#9110)に関する、警察庁・都道府県警察・政府広報の公表情報——事件・事故に至らない相談を受け付ける全国共通の窓口であることについて
  • 国土交通省が公表している、自家用有償旅客運送(福祉有償運送)に関するガイドブック・制度概要——NPO法人等の登録団体が、要介護者や障害のある方等の会員に対し、実費の範囲内で個別輸送を行う制度であることについて
  • 国土交通省地方運輸局が公表している「デマンド型交通の手引き」等——デマンド型交通が、事前予約に応じて運行される点で、決まったルート・時刻で運行するコミュニティバスと異なることについて
  • 厚生労働省の資料および介護保険制度に関する一般向け解説——訪問介護における「通院等乗降介助」が、要介護1以上の認定を受けた方を対象とする介護保険サービスであることについて
制度・手続きの内容は要約してお伝えしています。正確な内容は警察庁・都道府県警察・運転免許センターの原文を、地域の交通サービスや特典についてはお住まいの市区町村・地域包括支援センターに、医療に関することは医師にご確認ください。この記事の内容をもって、ご家族の運転の可否を判断しないでください。

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