施設への苦情の申し立て方|
窓口の順序と気になることの伝え方

サイト管理人
サイト管理人
祖父母の施設入居・父親の入院と緩和ケアを経験。実体験をもとに情報をお届けします。
施設に入ってしばらくすると、「ちょっと気になるな」ということが出てくるものです。着ている服がいつもと違う、聞いた話とやってもらっていることが違う、面会のときに本人が何か言いたそうにしている。
けれど、それを施設に言うのはずいぶん気が重いものです。お世話になっている手前、うるさい家族だと思われたくない。言ったことで本人の扱いが悪くなったら困る。そう考えて、飲み込んでしまう方がとても多いのです。
この記事では、気になることをどう整理して、誰に、どんな言い方で伝えるか、そして施設の中で解決しなかったときにどんな窓口があるかを、順を追って整理します。あわせて、虐待が疑われるときだけは手順が違うということも、はっきりお伝えします。
⚠️ はじめにお読みください
この記事は、厚生労働省や都道府県・市区町村、社会福祉協議会、国民健康保険団体連合会などが公表している制度の一般的な説明(2026年7月時点)をもとにまとめたものです。

特定の施設や事業所についての話は、実在のものも、たとえ話として作ったものも、一切書いていません。書けるのは「どんな仕組みがあるか」「一般にどう進めるとよいと案内されているか」だけだと考えています。

また、窓口の名前や受付の方法、申立ての手続きはお住まいの自治体によって違います。実際に相談するときは、市区町村の介護保険の窓口や地域包括支援センターで、最新の案内をご確認ください。

① 言い出しにくいのは、当然のことです

まず、この気持ちのことから書かせてください。

施設に何かを言うのは、なぜこんなに気が重いのでしょうか。理由はいくつもあると思います。

💭 多くのご家族が抱えている、言い出しにくさの正体
  • お世話になっているという負い目——毎日、自分たちではできないことをしてもらっている。その相手に注文をつけるのは気が引ける
  • 本人に不利になるのが怖い——「文句を言う家族」と思われて、本人への接し方が変わったら困る
  • 職員の忙しさが見えている——面会に行けば、みなさんが走り回っているのが分かる。これ以上頼めない
  • 自分の思い違いかもしれない——確証がない。勘違いで騒いだら恥ずかしい
  • 他に行き場がない——ここを出されたらどうしよう、次の施設は簡単に見つからない
  • 言葉にしにくい——「なんとなく気になる」だけで、うまく説明できない

どれも、まったく自然な感覚です。そして、この遠慮のせいで本来なら簡単に直ったはずのことが、何か月も放置されてしまうことがあります。それはご本人にとっても、施設にとっても、もったいないことです。

ほとんどのことは「相談」で解決します

この記事でいちばん伝えたいのは、これです。

気になることの多くは、伝え方と情報の共有で解決します。

施設の職員は、入居されている方の暮らしを24時間見ています。けれど、その方の「これまで」を知っているのはご家族だけです。何が好きだったか、どういう言い方だと落ち着くのか、昔から何が苦手だったのか。それは記録にも書かれていないことが多いのです。

だから、家族が気づいたことを伝えるのは、クレームではなく情報提供に近いことがほとんどです。「こう言われるのが苦手な人なんです」「昔から朝は機嫌が悪いんです」——それを伝えるだけで、対応が変わり、本人が落ち着くことがあります。

💡 伝えることは、施設にとっても助かることです
施設の側も、入居されている方が穏やかに過ごしてくれることを望んでいます。うまくいっていないことに気づいていない、というだけの場合も少なくありません。

また、社会福祉法では、福祉サービスを提供する事業者は利用者などからの苦情の適切な解決に努めなければならないと定められています(第82条)。それを受けて、施設の中に苦情を受け付ける担当者や外部の第三者委員を置く仕組みが整えられています。あとの章でくわしく説明しますが、相談されることは、制度として想定されているのです。

「言ってはいけないこと」を言おうとしているのではありません。そこは、まず安心してください。

それでも遠慮してしまうときの、考え方

「言うと本人に不利になるのでは」という不安は、なかなか消えないと思います。ここについては、次のように考えると少し楽になるかもしれません。

ひとつは、言い方を工夫すれば、角は立ちにくいということです。この記事の④で具体的に書きます。責める形ではなく、事実と困りごとを共有する形にすれば、相手も身構えません。

もうひとつは、直接言いにくいなら、間に入ってもらう方法があるということです。ケアマネジャー、地域包括支援センター、施設の第三者委員、市区町村の窓口。家族が直接ぶつからずに伝えるルートは、ちゃんと用意されています。

そして最後に、言わないことのリスクもあるということです。気になることを飲み込み続けると、家族の気持ちが疲れていきます。面会に行くのがつらくなる。施設のことを疑いながら過ごす。それは、ご本人の暮らしにも影響します。

② まず「何が起きたか」を事実として整理する

伝える前に、ひとつだけやっておくとよいことがあります。感情と事実を、いったん分けて書き出すことです。

これは施設のために我慢するという話ではありません。そのほうが、実際に伝わりやすいからです。

なぜ分けるのか

気になることがあると、どうしても気持ちが先に立ちます。「ひどい」「ちゃんと見てくれていない」「信じられない」。その気持ちは当然のものですが、それをそのまま伝えると、受け取った側は「何を直せばいいのか」が分からないのです。

逆に、事実だけを伝えると、相手はすぐに調べられます。日付があれば記録を確認できます。時間帯が分かれば、その時間の担当者に聞けます。具体的であるほど、対応は早くなります。

伝わりにくい言い方 伝わりやすい言い方
ちゃんと見てもらえていないと思います 先週の面会のとき、足に前はなかったあざがありました。いつごろのものか、記録を確認していただけますか
対応が冷たい気がします 本人が「呼んでも来てくれないことがある」と言っています。夜間の呼び出しはどのくらいで対応できる体制か、教えていただけますか
話が違います 入居前の説明では入浴は週2回と聞いていましたが、最近は週1回のようです。何か理由がありますか
不衛生だと思います 面会に行くと、同じ服が続いていることが何回かありました。着替えはどのくらいの頻度で行っていますか
本人がかわいそうです 面会のとき「早く帰りたい」と繰り返すようになりました。日中の様子で変わったことはありませんか

右側の言い方には、共通点があります。①いつ、②何が見えた・聞こえた、③だから何を知りたいか——この3つが入っています。そして、相手を責める言葉が入っていません。

📝 整理するときの4つの問い
  • いつのことか——日付、時間帯、何回目か。「たしか先月」でも構いません
  • 何を、どうやって知ったか——自分の目で見た/本人が言った/他の家族が聞いた/書類に書いてあった。ここを分けるのが大事です
  • 何が困っているのか——本人が痛がっている/不安になっている/説明と違う/お金の話が分からない
  • どうなってほしいのか——理由を知りたい/やり方を変えてほしい/記録を見せてほしい/今後の方針を決めたい

「本人が言っている」ことの扱い

ここは少し慎重に書きます。

ご本人の言葉は、いちばん大事な情報です。まず信じて聞く姿勢が出発点です。そのうえで、伝えるときは「本人がこう言っています」という形で、そのまま伝えるのがよいと思います。

というのは、記憶や認識に変化がある方の場合、実際の出来事と本人の受け取り方がずれていることがあります。逆に、まわりが「思い違いだろう」と決めつけて、本当にあったことが見過ごされることもあります。

どちらの決めつけもしないために、「本人がこう話しています。実際はどうだったか、確認していただけますか」という形が、いちばん安全で、いちばん前に進みます。事実の確認を施設と一緒にやる、という姿勢です。

⚠️ ただし、体に痛みや傷があるときは急いでください
「本人の言い方があいまいだから、様子を見よう」と考えてよいのは、体に異変がない場合です。

あざ、傷、痛み、急な体調の変化があるときは、確認を待たずにその日のうちに施設に伝えて、必要なら受診をお願いしてください。原因の話は後からでもできますが、体のことは後回しにできません。

虐待が心配になる状況については、⑨でまとめて書いています。

③ 記録の残し方——あとで役に立つ形にしておく

気になることが続くようなら、簡単でよいので記録を残しておくことをおすすめします。

大げさな準備はいりません。ノート1冊、あるいはスマートフォンのメモで十分です。目的は、施設と争うためではなく、「たしかこうだった気がする」を「この日にこうだった」に変えるためです。

📔 記録に書いておくとよいこと
  • 日付と時間——面会に行った日、電話をした日
  • 見たこと・聞いたこと——できるだけそのまま。「本人が『◯◯』と言った」のように、言葉は言葉として
  • 誰に、何を伝えたか——相談した相手の役職(できれば名前)、伝えた内容
  • どう返ってきたか——「確認します」「こう対応します」「次回までに回答します」など
  • その後どうなったか——改善した/変わらない/回答がない
  • 体のこと——あざや傷は、気づいた日付をメモしておく

写真を撮ってよいか

ご本人の体の状態(あざや傷など)を記録として写真に残しておくことは、後で医師に見せるときにも役に立ちます。ただし、撮るのはご本人のことだけにしてください。

施設の中は、他の入居者の方が暮らしている生活の場です。他の入居者の方や職員の方が写り込む撮影、無断での録音は、相手のプライバシーの問題になります。施設によって撮影のルールも決まっていますので、気になるときは「本人の様子を写真に残してよいですか」と一言確認するのが確実です。

💡 施設側の記録も見せてもらえます
施設には、日々の介護の記録(介護記録・ケア記録)や、事故が起きたときの記録を作ることが求められています。気になることがあるときは、その記録の説明を求めることができます。

「その日の記録を見せていただけますか」「どんな記録が残っているか教えてください」と聞いてみてください。開示のしかたや手続きは施設によって決まりがあるので、まずは相談の形で聞くのが進めやすいです。

記録を突きつけて追及するためではありません。何が起きていたかを一緒に確かめるためです。その姿勢が伝わると、施設も協力しやすくなります。

④ 伝え方のコツ——責めずに、事実と困りごとを伝える

では、実際にどう言えばよいのでしょうか。

コツはひとつです。「あなたが悪い」ではなく「これで困っている、一緒に考えてほしい」という形にすることです。

使いやすい言い方の型

🗣️ そのまま使える伝え方の型
  • 事実+質問——「◯日の面会のとき、△△でした。何か理由がありますか」
  • 本人の様子+相談——「本人が◯◯と言っていて心配なのですが、日中の様子はどうでしょうか」
  • お願いの形——「無理のない範囲でよいのですが、◯◯していただけると助かります」
  • 情報提供の形——「もともと◯◯が苦手な人なので、△△のように声をかけてもらえると落ち着くかもしれません」
  • 説明の依頼——「入居のときの説明と少し違うように思うので、今の方針を教えていただけますか」
  • 感謝を添える——「いつもありがとうございます。そのうえで、ひとつ気になっていることがあって」

「感謝を添える」は、機嫌をとるためではありません。こちらが敵として来たのではないと最初に示すためです。それだけで、相手の身構えがずいぶん変わります。

避けたほうがよい言い方

⚠️ こう言うと、話が進みにくくなります
人を責める言い方——「あの職員さんはひどい」。特定の人を責める形にすると、その方が身を守る話になってしまい、事実の確認が進みません。まずは「その場面」の話としてください。

決めつけ——「虐待じゃないですか」「隠しているんでしょう」。もし本当に心配な状況なら、⑨に書いた道すじで動くのが確実です。施設との話し合いの場で決めつけの言葉を使うと、確認できることまで止まってしまいます。

全体をまとめて否定する——「この施設はレベルが低い」。相手が何を直せばよいのか分かりません。

ためこんで一度に出す——半年分をまとめて言うと、相手も混乱し、こちらも感情が乗ります。小さいうちに、こまめにのほうが、お互い楽です。

その場で結論を迫る——「今すぐ答えてください」。事実の確認には時間が必要です。「いつまでに回答いただけますか」と期限を相談する形にすると、進み方がはっきりします。

伝える場面の選び方

意外に大きいのが、いつ・どこで話すかです。

🕐 伝えるタイミングと場所
  • 忙しい時間帯を避ける——食事、入浴、送り出しの時間は職員が動けません。落ち着いて話したいなら、事前に「相談の時間をいただけますか」と伝えるのがいちばんです
  • 本人の前では話さない——本人が聞いていると、気を遣わせてしまいます。別室か、電話で
  • 他の入居者の前でも話さない——ここも同じです
  • 軽い相談は連絡帳や電話で——わざわざ改まらなくてよいことは、その場でひと言のほうが早く直ります
  • 大事な話は、時間をとってもらう——「一度ゆっくりお話しさせてください」と申し込む。記録に残る形になり、責任のある立場の方が同席してくれます

話し合いのときにやっておくとよいこと

✅ 面談の進め方
  • 聞きたいことをメモにしていく——その場で感情が動くと、聞き忘れます。3つくらいに絞ると話しやすいです
  • できれば2人で行く——ご家族が2人いると、聞き落としが減り、冷静に進みます
  • 誰が話しているかを確認する——役職を聞いておくと、次に誰に連絡すればよいか分かります
  • その場で決まったことを口に出して確認する——「では、◯◯していただけるということですね」
  • いつまでに、どうなるかを確認する——「次の面会までに様子を教えていただけますか」
  • 終わったらメモを残す——日付、相手、話した内容、決まったこと

⑤ 誰に言うか——施設の中の相談ルート

「誰に言えばいいのか分からない」というのも、よくあるつまずきです。施設には立場のちがう職員がいて、それぞれ役割が違います。

相手 どんなことを相談するか
その場にいる介護職員 日々の小さなこと。「タオルを増やしてほしい」「この服は苦手そうです」など、その日で解決するようなこと
施設のケアマネジャー
(生活相談員・支援相談員)
暮らし方全体のこと、ケアプランの内容、家族との連絡調整。入居後の相談の中心になる立場です。多くの施設で、まずここに相談するのが自然な流れになっています
看護職員 体調、薬、傷やあざ、受診のこと。医療面の心配はここへ
ユニットリーダー・現場の責任者 日々の介護のやり方そのものについて。「どういう方針でこうしているのか」を聞ける相手
施設長・管理者 方針のこと、繰り返し改善されないこと、契約や費用の話。大きな話はここへ
苦情受付担当者 苦情や相談を受け付ける担当として、施設が決めている職員。⑥でくわしく書きます
第三者委員 施設の外の立場の人。施設の職員に直接言いにくいときの受け皿。⑥でくわしく書きます
💡 迷ったら、生活相談員か施設のケアマネジャーへ
「誰に言えばいいか分からない」というときは、生活相談員(施設によっては支援相談員、施設のケアマネジャー)に相談するのが、いちばん失敗しません。

この方たちは、ご家族と現場をつなぐ役割を担っています。話を聞いて、必要な人につないでくれます。「どこに相談したらよいかも分からないのですが」と切り出して大丈夫です。

担当者の名前が分からなければ、施設に電話して「家族の相談は、どなたにお伝えすればよいですか」と聞くところから始めれば十分です。

順番は「小さく、近いところから」

いきなり施設長や外部の窓口に持ち込む必要は、たいていありません。小さいことは近い人に、直らないときに一段上へという進め方が、いちばん角が立たず、いちばん早く解決します。

ただし、これは原則です。体に危険が及んでいるとき、虐待が疑われるときは、この順番を守る必要はありません。その場合の動き方は⑨に書きます。

⑥ 施設の中の窓口——苦情受付担当者と第三者委員

ここからは、制度として用意されている仕組みの話です。

社会福祉法第82条では、福祉サービスを提供する事業者は、利用者などからの苦情の適切な解決に努めなければならないと定められています。そして、それを具体的にどう行うかについて、厚生労働省が「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針」(平成12年6月7日付の通知。その後改正)を示しています。

この指針では、事業者の中に苦情解決責任者と苦情受付担当者を置き、さらに社会性・客観性を確保するために第三者委員を置くこととされています。

役割 何をする人か
苦情受付担当者 施設の職員の中から任命され、利用者や家族からの苦情を受け付ける窓口になります。苦情の内容と申し出た人の意向を記録・確認し、苦情解決責任者と第三者委員に報告する役割です。「誰に言えばよいか分からない」ときの、制度上の入口にあたります
苦情解決責任者 施設長・理事など責任のある立場の人とされています。苦情を申し出た人と話し合って解決に努め、改善の状況を第三者委員に報告する役割です
第三者委員 事業者の職員ではない外部の立場の人です。指針では、評議員、監事、社会福祉士、民生委員などが例に挙げられ、複数置くことが望ましい、中立性を保つため実費弁償を除いてできるだけ無報酬とすることが望ましいとされています。複数の事業所・法人で共同して置くこともできます

第三者委員という存在を知っておいてください

「施設の人には直接言いにくい」というときのために用意されているのが、第三者委員です。

厚生労働省の指針では、第三者委員の役割として次のようなことが挙げられています。

🤝 第三者委員がしてくれること(指針に挙げられている役割)
  • 苦情を直接受け付ける——施設を通さず、第三者委員に直接申し出ることができます
  • 施設から苦情の内容について報告を聴く
  • 苦情を申し出た人に助言する
  • 事業者(施設)に助言する
  • 申し出た人と苦情解決責任者との話し合いに立ち会い、助言する
  • 改善の状況について報告を聴く
  • 日常的に状況を把握し、利用者の意見を聴く
「話し合いに立ち会ってもらえる」というのが、ご家族にとってはとくに大きいと思います。家族と施設が二者だけで向き合うと感情的になりやすい場面で、間に人が入ると、話が整理されます。

なお指針では、苦情解決の仕組みは施設内への掲示やパンフレットの配布などで利用者に周知すること、苦情の受付から解決までの経過と結果を書面で記録すること、個人情報を除いて事業報告書や広報誌などで苦情解決の結果を公表することもあわせて示されています。つまり、相談したことは記録に残り、対応の経過をたどれる仕組みになっているということです。

📞 窓口の連絡先はどこに書いてあるか
  • 入居のときに受け取った契約書・重要事項説明書——苦情の受付窓口、担当者、第三者委員の連絡先、外部の相談窓口が書かれているのが一般的です。まずここを見てください
  • 施設内の掲示——玄関や廊下、相談室などに掲示されていることがあります
  • 施設のパンフレットやホームページ
  • 施設に直接聞く——「苦情の受付担当の方と、第三者委員の連絡先を教えてください」と聞けば案内されます。これを聞くこと自体、失礼にはあたりません
重要事項説明書は、入居のときにたくさんの書類と一緒に渡されて、しまい込んでしまいがちです。一度取り出して、苦情窓口のページを確認しておくと安心です。

まずは施設の中で、が原則です

外部の窓口の話に進む前に、ひとつ確認しておきたいことがあります。

多くのことは、施設の中の話し合いで解決します。そして、施設の側も「知らなかった」「気づいていなかった」ということが少なくありません。

いきなり外部に持ち込むと、施設は事実確認と報告の対応に追われます。それ自体が悪いわけではありませんが、本人の暮らしを良くするという目的から見ると、まず現場と話すほうが早いことが多いのです。

ですから、原則としては①現場の職員や相談員 → ②施設の苦情受付担当者・責任者 → ③第三者委員 → ④外部の窓口という順番を意識してみてください。

くり返しますが、これは虐待が疑われる場合には当てはまりません。その場合は⑨をご覧ください。

⑦ ケアマネジャー・地域包括支援センターに間に入ってもらう

もうひとつ、忘れられがちな味方がいます。ケアマネジャーと地域包括支援センターです。

ケアマネジャーに相談する

施設に入居している場合、ケアプランを作るのは施設のケアマネジャーになることが多いです(施設の種類によって異なります)。一方、住宅型の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などでは、外部のケアマネジャーが担当していることもあります。

外部のケアマネジャーが担当しているなら、その方に相談するのは非常に有効です。施設の外にいる専門職なので、家族の立場に立って、専門用語で施設と話してくれます。

施設のケアマネジャーが担当している場合でも、その方は家族と現場をつなぐことが仕事です。「現場に直接言いにくいので、間に入ってもらえますか」とお願いできます。

ケアマネジャーとの関係そのものに悩んでいる場合は、ケアマネジャーの選び方・変え方もあわせてご覧ください。

地域包括支援センターに相談する

地域包括支援センターは、市区町村が設置している高齢者の総合相談窓口です。無料で相談できます。

介護保険法にもとづく「包括的支援事業」(法第115条の46)を担う機関で、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)といった専門職が配置されています。役割は大きく総合相談支援・権利擁護・包括的継続的ケアマネジメント支援・介護予防ケアマネジメントの4つに整理されており、このうちの「権利擁護」に、高齢者虐待の防止・対応や成年後見制度の利用支援が含まれます。

つまり、虐待の相談も、その手前の「どこに相談したらよいか分からない」という相談も、同じ場所で受けてもらえるということです。介護のことも、制度のことも、家族の困りごとも、まとめて聞いてくれます。

💡 地域包括支援センターに相談できること
  • どこに相談すればよいかの整理——「この話は市区町村の窓口ですね」「まず施設に確認してみましょう」など、道すじを教えてもらえます
  • 伝え方の相談——「こう言ってみたらどうでしょう」という助言をもらえます
  • 制度の説明——契約のこと、費用のこと、使える仕組みのこと
  • 高齢者虐待の相談・通報——権利擁護業務として、市町村と連携して虐待の相談・通報を受け付ける役割を担っています(⑨で説明します)
  • 成年後見制度の利用支援——判断する力が落ちてきて、お金や契約のことが心配なとき
  • 家族自身のつらさの相談——介護している家族の負担についても相談先になります
担当のセンターは住んでいる地域で決まっています。市区町村の高齢者福祉の窓口に電話すれば、どこが担当か教えてもらえます。相談窓口の全体像は介護の相談はどこにすればいい?無料で使える相談窓口まとめで整理しています。
⚠️ ご家族が疲れきっているときは、そちらも相談してください
施設のことが気になり続けている時期は、ご家族も相当に消耗します。面会に行くのが重い、施設のことを考えると眠れない、という状態になることもあります。

それは、伝え方が下手だからでも、心が弱いからでもありません。気を張り続けているからです。地域包括支援センターは、そういう相談も受けています。

ご家族自身の心の守り方については、介護する家族の心のケア|共倒れしないためににまとめています。

⑧ 外部の窓口へ——市区町村・国保連・運営適正化委員会

施設と話し合っても解決しないとき、あるいは施設に直接言うことがどうしても難しいとき。外部の窓口に相談する道があります。

順番と役割を整理します。

窓口 役割・特徴
市区町村の
介護保険担当窓口
いちばん身近な公的窓口で、介護保険サービスの苦情については「第一次的な窓口」と位置づけられています。市区町村は事業者を指定・指導する立場でもあるため、相談を受けて施設に確認や指導を行うことがあります。地域密着型のサービスは市町村が指定しているので、その分野はとくに市区町村が窓口です。高齢者虐待の通報先でもあります(高齢者虐待防止法第21条)
国民健康保険団体連合会
(国保連)
都道府県ごとに置かれている団体です。介護保険法第176条第1項第3号を根拠に、サービスの質の向上に関する調査と、指定事業者への必要な指導・助言を行うことが業務とされており、その一環として利用者・家族からの苦情を受け付けています。市区町村では対応が難しい場合に、広域的に動ける第三者機関として補完する役割という位置づけです。申立ては書面(苦情申立書)で行うのが一般的で、受付から結果まで一定の期間(数十日程度)がかかります。扱えない苦情(対象外)もあるため、申立ての前に確認が必要です
運営適正化委員会
(都道府県社会福祉協議会)
社会福祉法第83条に基づき、都道府県社会福祉協議会に置かれている委員会です。委員は社会福祉・法律・医療に関する学識経験者で構成されます。苦情の解決の申し出があったときは、相談に応じ、必要な助言をし、事情を調査するとされ(第85条)、話し合いのあっせん(仲立ち)も行います。介護保険に限らず福祉サービス全般が対象なのが特徴です。また、利用者の処遇について不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは、都道府県知事に通知しなければならないとされています(第86条)
都道府県の
介護保険・高齢福祉の窓口
特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、施設の種類によっては都道府県が指定・指導を行っています。市区町村に相談したときに、必要なら都道府県につないでもらえます
💡 3つの窓口の使い分け(ざっくりした考え方)
  • まず相談したい・どこに言うか分からない → 市区町村の窓口または地域包括支援センター。市区町村は介護保険サービスの苦情の第一次的な窓口です。いちばん敷居が低く、話が早いです
  • 介護保険のサービスの内容について、正式に申立てをしたい → 国保連。書面での手続きになり、調査を経て事業者への指導・助言につながる仕組みです
  • 施設と直接話すのが難しく、間に入って調整してほしい → 運営適正化委員会。相談・助言・調査に加えて、あっせん(話し合いの仲立ち)を行う役割があります
どこに相談すればよいか迷ったら、まず市区町村の窓口に電話して事情を話してください。適切な窓口に案内してもらえます。「たらい回しされるのでは」と心配になるかもしれませんが、窓口の役割分担がはっきりしているぶん、案内は具体的です。
⚠️ 外部の窓口は「話し合いで解決できないとき」のためのものです
外部の窓口についての公的な案内では、これらを使う場面として「事業者との話し合いで解決できなかった場合」や「事業者に直接苦情を言いづらい場合」が挙げられています。

つまり、順番として施設内の話し合いが先にあることが前提になっているということです。ただし「直接言いづらい場合」も想定されているので、施設との話し合いを済ませていないと使えない、ということではありません。

虐待が疑われる場合は、この順番の話とは別です。⑨をご覧ください。

外部に相談すると、施設との関係は悪くなるのか

ここが、いちばん心配なところだと思います。

正直に言えば、施設側にとって外部からの照会は負担です。事実確認や報告に手間がかかります。ですから、順番として、まずは施設の中で話すほうがお互いに楽なのは事実です。

ただ、それは「外部に相談してはいけない」という意味ではありません。外部の窓口は、家族が困ったときに使うために公的に用意されているものです。使うことは正当な行動です。

そして、外部に相談する前でも後でも、「施設を敵に回す」形にしないほうが結果はよくなります。「相談させてもらいました」と施設にも伝えておく、事実の確認をお願いする姿勢を保つ、といったことです。目的は施設を責めることではなく、ご本人の暮らしをよくすることだからです。

⚠️ 手続きや窓口の名前は、地域によって違います
ここで説明した窓口の名前、受付の方法、申立ての書類、処理にかかる期間などは、都道府県や市区町村によって運用に違いがあります。

「うちの地域では何という窓口が担当か」「どんな書類が必要か」は、市区町村の介護保険の窓口で確認するのがいちばん確実です。

また、この記事は制度の一般的な説明であり、個別の事案についての助言ではありません。損害の賠償や契約の解除といった法律に関わることは、弁護士等の専門家にご相談ください。

⑨ 虐待が疑われるときは、手順が違います

ここまでは「まず施設に相談する」という順番で書いてきました。

虐待が疑われる場合は、その順番ではありません。この章だけは、考え方を切り替えてください。

⚠️ この場合は、市区町村へ直接相談・通報してください
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)では、施設や事業所の職員による虐待について、通報先を「市町村」と定めています(法第21条)。

つまり、通報先は施設ではありません。まず施設に確かめてから、という順番を守る必要はありません。実際の相談は、市区町村の高齢者福祉・介護保険の担当窓口、または地域包括支援センター(市町村と連携して虐待の相談・通報の受付を担っています)で受け付けています。

確証がなくても相談してかまいません。法律の言葉が「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」となっているのは、虐待かどうかを確かめるのは市町村の役割であって、発見した人が証明する必要はないという考え方だからです。「思い違いだったら申し訳ない」と黙ってしまうことのほうが、心配な事態につながります。

誰に、どこまでの義務があるのか

条文の作りを知っておくと、迷ったときに動きやすくなります。高齢者虐待防止法の第21条は、次のように分かれています。

誰が どうすることになっているか
施設・事業所の職員
(養介護施設従事者等)
自分が働いている施設で、職員による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、速やかに市町村に通報しなければならないとされています(第21条第1項)。重大な危険が生じているかどうかを問わない、通報の義務です
ご家族など、発見した人
(生命・身体に重大な危険があるとき)
速やかに市町村に通報しなければならないとされています(第21条第2項)。こちらも義務です
ご家族など、発見した人
(上記以外の場合)
速やかに市町村に通報するよう努めなければならないとされています(第21条第3項)。義務ではありませんが、通報してよいことが法律に書かれている、という意味です
💡 「うちの場合は義務ではないから、言わなくていい」ではありません
第3項は「努めなければならない」という書き方なので、義務ではありません。けれど、これは「通報してよい」ということが法律に明記されているという意味です。

重大な危険があるかどうかを、ご家族が正確に見きわめるのは難しいことです。だからこそ、迷った段階で相談してよいのです。

なお、ご家族や同居の親族など、家庭で介護している人(養護者)による虐待についても、同じ考え方で市町村への通報の仕組みが定められています(法第7条)。「自分の家のことで、これは虐待にあたるのだろうか」という相談も、同じ窓口で受け付けています。

気になるサイン

高齢者虐待防止法では、虐待を身体的虐待、介護等放棄(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5つに整理しています(法第2条)。体への暴力だけではないということです。心配になったときに思い出せるよう、それぞれの内容と、気づきのきっかけになりやすい点を挙げます。

類型 どんなことか/気づくきっかけ
身体的虐待 叩く、つかむ、押さえつける、必要な理由の説明がないまま体の動きを縛るなど。説明のつかないあざ・傷・骨折、体をこわがる様子
心理的虐待 どなる、侮辱する、無視する、子ども扱いして人としての扱いをしないなど。特定の人の前で急に緊張する、落ち込みや不安が強くなる、話さなくなる
介護等放棄
(ネグレクト)
必要な世話をしない。食事や水分、排せつ、清潔の世話、必要な受診が行われないなど。ひどい脱水や体重減少、汚れたままの状態が続く、必要な治療が受けられていない
性的虐待 本人の意思に反する性的な行為や、それに近い扱い。人前で下半身を露出させたままにするなども含まれるとされます
経済的虐待 本人の財産を本人の意思に反して使う、必要なお金を渡さないなど。説明のつかない出金、金銭管理の説明を受けられない
👀 判断がつかないときの考え方
  • 「虐待かどうか」を家族が判定する必要はありません——それを確かめるのは行政の役割です。家族がすることは、気づいたことを伝えることだけです
  • 迷ったら「相談」という形で構いません——「通報」という言葉が重く感じるなら、「気になることがあるので相談したい」と切り出せば十分です。窓口は同じです
  • 体の異変があるときは、あわせて受診を——医師に見てもらった記録は、本人を守るうえでも役に立ちます
  • 気づいた日付と内容をメモしておく——③に書いた記録が、そのまま役に立ちます

相談・通報の窓口

📞 高齢者虐待の相談・通報先
  • 市区町村の高齢者福祉・介護保険の担当窓口——法律で定められた通報先です
  • 地域包括支援センター——市区町村と連携して、虐待の相談を受け付ける役割を担っています。日中に電話しやすい相談先です
自治体によっては、専用の相談ダイヤルや夜間の連絡先を設けているところもあります。市区町村のホームページで「高齢者虐待 相談」と探すと案内が見つかることが多いです。

通報した人は守られます

ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。法律には、通報した人を守るための規定が置かれています。

🛡️ 通報者を守るための2つの仕組み
  • 市町村の職員には、通報者を特定させる情報についての守秘義務があります——通報や届出を受けた市町村の職員は、職務上知った事項のうち「通報をした者を特定させるもの」を漏らしてはならないとされています(法第23条)。事務を委託されている機関(地域包括支援センターなど)の職員にも同様の義務が及びます。ご家族が通報した場合、まずこの規定が守りになります
  • 施設の職員が通報した場合は、解雇その他の不利益な取扱いが禁じられています——通報したことを理由に、解雇その他不利益な取扱いを受けないと定められています(法第21条第7項)。これは施設で働いている職員(養介護施設従事者等)についての規定です。守秘義務に関する法律の規定が通報を妨げるものと解釈してはならない、ともされています
  • 相談・通報を受けた市町村は、事実の確認を行います——本人の安全の確認や、施設に対する調査などが行われる仕組みになっています
「通報したことが施設に知られて、本人が不利になるのでは」という不安は当然のものです。心配なときは、相談のときに「本人の立場が心配なので、配慮していただけますか」と伝えてください。窓口はそういう相談に慣れています。
⚠️ もし施設で働いている方がこの記事を読んでいたら
施設の中で気になることに気づいた職員の方にも、上に書いた保護の規定があります。自分が働いている施設のことを市町村に通報したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを受けないと法律に定められています(法第21条第7項)。

現場で「言ってよいのか」と迷う場面があることは想像がつきます。判断に迷うときは、市町村の窓口に相談という形で連絡してみてください。

それでも迷うときは

「これは虐待というほどのことなのだろうか」「職員の方も忙しいのだから、仕方ないのかもしれない」——そう思って立ち止まってしまう方は、とても多いと思います。

そういうときは、判断をひとりで抱えないでください。地域包括支援センターに電話して、「こういうことがあって迷っているのですが」と話すだけでよいのです。相談した結果、「それは施設と話してみましょう」ということになる場合もあります。それでいいのです。

相談は、告発ではありません。迷っている状態のまま相談することが、いちばん現実的な一歩です。

⑩ 事故やけががあったときの確認のしかた

転倒、ベッドからの転落、食事中に詰まらせた、外に出てしまった、他の入居者との間でぶつかりごとがあった——施設で暮らしていると、こうしたことが起きる可能性はあります。

まず知っておいていただきたいのは、介護の現場では、どれだけ丁寧に対応していても事故が完全にゼロになることはないということです。歩ける方の転倒を完全に防ぐには、動きを制限することになってしまいます。それは本人の暮らしを守ることになりません。

ですから、事故が起きたこと自体で施設を責める必要はありません。大事なのは、何が起きたのかがきちんと説明され、次にどうするかが一緒に考えられるかです。

まず確認したいこと

✅ 事故・けがのあとに確認すること
  • 本人の状態——今どうなっているか、痛みはあるか、食事や睡眠はとれているか
  • 受診したか——医師に診てもらったか。診断はどうだったか。今後の通院はどうなるか
  • いつ、どこで、どういう状況だったか——時間、場所、そのときの本人の動き、職員の位置
  • 気づいたきっかけ——職員が見ていたのか、あとで気づいたのか
  • その後の対応——誰が、どういう順番で対応したか。家族への連絡はいつだったか
  • 記録はどうなっているか——事故の記録が作られているか。説明を受けられるか
  • 再発を防ぐために何をするか——ここがいちばん大事です。部屋の配置、見守りの回数、履物、ケアプランの見直しなど
💡 施設には、事故があったときの報告の仕組みがあります
介護保険サービスの運営基準では、サービスの提供によって事故が発生した場合、事業者は速やかに市町村と利用者の家族等に連絡を行い、必要な措置を講じること、そして事故の状況と対応について記録することが定められています。

さらに、厚生労働省は2021年(令和3年)3月19日付の通知で、市町村への事故報告の様式を標準化しています。この通知では、事故が発生したら速やかに、遅くとも5日以内を目安に関係市町村へ報告するという考え方が示されています。

つまり、家族への連絡と記録は、施設に求められていることです。「記録を見せていただけますか」「市町村への報告はされましたか」と聞いてよいのです。

聞き方は、責める形でなくて構いません。「同じことが起きないように、状況を知っておきたいので」と添えると、話が前に進みます。なお、市町村に報告する事故の範囲や様式の細かいところは自治体ごとに定められていますので、「どの範囲が報告対象か」は市区町村の窓口で確認できます。

説明に納得できないとき

説明を聞いても分からない、話が変わる、記録の説明を受けられない——そういうときは、次の段階に進むことになります。

📋 納得できないときの進め方
  • もう一度、責任のある立場の方に説明を求める——施設長や管理者に、時間をとって説明してもらう。できれば書面での説明をお願いすると、内容がはっきりします
  • 記録の開示について相談する——介護記録、事故の記録。手続きの方法を確認します
  • ケアマネジャーや第三者委員に入ってもらう——間に人が入ると、話が整理されます
  • 市区町村の窓口に相談する——事故の報告を受ける立場でもあるため、事情を伝えて相談できます
  • 診断書などを残しておく——受診した記録は、あとから状況を確かめる材料になります
⚠️ 賠償や責任の話は、専門家に相談してください
「施設に責任があるのか」「賠償を求められるのか」といったことは、個別の事情によって大きく変わる法律の問題です。このサイトでは判断をお伝えできません。

必要なときは、弁護士等の専門家にご相談ください。各地の弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)では、法律相談の案内を行っています。市区町村でも無料の法律相談を実施しているところがあります。

なお、多くの施設は賠償責任保険に加入しています。契約書や重要事項説明書に、事故が起きたときの取り扱いについて書かれていることがありますので、一度確認してみてください。

⑪ 改善しないとき——住み替えという選択肢

ここまでの手順を踏んでも、状況が変わらないことはあります。何度も伝えた、外部にも相談した、それでも根本のところが合わない。

そういうときには、別の施設に移るという選択肢も、視野に入れてよいと思います。

あせって決める必要はありません

ただし、これは最後の手段として置いておく話です。住み替えは、ご本人にとって大きな負担になります。環境が変わることで体調や気持ちが不安定になる方もいますし、慣れるまで時間もかかります。費用の負担も、手続きの手間もあります。

ですから、まずは次の順番で考えてみてください。

💡 住み替えを考える前に確かめること
  • 伝えたことが、正確に現場に届いているか——相談員には伝わっているけれど、現場の職員に共有されていないということがあります。「どう共有されましたか」と確認してみてください
  • ケアプランの見直しで解決しないか——過ごし方や支援の内容そのものを変えることで、状況が変わる場合があります
  • 合わないのは施設全体か、一部の場面か——特定の場面だけなら、そこを変えるほうが本人の負担は小さいです
  • 間に入ってもらう人を変えてみたか——ケアマネジャー、第三者委員、市区町村。人が変わると話が動くことがあります
  • 本人はどう感じているか——家族が気にしていることと、本人が困っていることがずれている場合もあります

それでも「ここでは難しい」と感じるなら、次を探し始めてよいのです。そのときも、今の施設にいながら並行して探せます。先に退居を決めてしまう必要はありません。

📝 次を探すときに、今回の経験を活かす
今の施設で気になったことは、次を選ぶときの見るポイントになります。

たとえば、家族への連絡の丁寧さが気になったなら、見学のときに「ご家族への連絡はどのようにされていますか」と聞く。介護のやり方が気になったなら、「困ったことがあったとき、どこに相談すればよいですか」「苦情の受付担当と第三者委員はどなたですか」を必ず確認する。

見るべきポイントの整理は良い施設・悪い施設の見分け方|後悔しない老人ホームの選び方にまとめています。また、施設側から退居を求められるケースについては施設から退去を求められるケースと対処法で説明しています。
広告(PR)
話し合っても改善せず、住み替えを考える場合の選択肢として
今の施設で相談を重ねても難しいと感じたときには、他にどんな施設があるのかを知っておくと、落ち着いて考えられます。今すぐ移る必要はありません。無料の相談サービスなら、地域の選択肢を聞くところから相談できます。
▶ 施設について無料で相談する

相談先の一覧(整理)

最後に、この記事に出てきた相談先をまとめておきます。

相談先 何を相談できるか
施設の生活相談員・
施設のケアマネジャー
入居後の相談の中心。暮らし方、ケアの内容、家族との連絡。まずここから
施設の苦情受付担当者・
苦情解決責任者
苦情や相談の正式な受付。連絡先は契約書・重要事項説明書に記載されています
第三者委員 施設の職員ではない外部の立場の人。施設に直接言いにくいときの受け皿。話し合いへの立ち会いや助言
担当のケアマネジャー 外部のケアマネジャーが担当している場合はとくに有効。ケアプランの見直し、施設との調整
地域包括支援センター 市区町村が設置する高齢者の相談窓口。無料。どこに相談すべきか分からない段階でも大丈夫。高齢者虐待の相談も受け付けます
市区町村の
介護保険担当窓口
介護保険サービスの苦情・相談。施設への確認や指導につながる場合があります。高齢者虐待の通報先
国民健康保険団体連合会
(国保連)
介護保険サービスについての苦情の申立て。書面で申し立て、調査を経て事業者への指導・助言が行われる仕組み
運営適正化委員会
(都道府県社会福祉協議会)
福祉サービス全般の苦情。専門家である委員が、調査・助言・あっせん(話し合いの仲立ち)を行います
弁護士等の専門家 賠償や契約など法律に関わること。弁護士会や法テラスで相談の案内を受けられます

📌 まとめ

  • 言い出しにくいのは当然です。そして、気になることの多くは伝え方と情報の共有で解決します。施設には苦情や相談を受け付ける仕組みを整えることが求められており、相談されることは想定の中にあります
  • 伝える前に、感情と事実を分けて整理する。「いつ/何を見た・聞いた/何に困っている/どうなってほしいか」の4つを書き出すだけで、伝わり方が変わります
  • 簡単な記録を残す。日付、見たこと、誰に何を伝えたか、どう返ってきたか。争うためではなく、確かめるためです
  • 伝え方は「事実+質問」が基本。人を責める形、決めつけ、ためこんで一度に出す、その場で結論を迫る——これらは避けたほうが進みます
  • 迷ったら生活相談員・施設のケアマネジャーへ。小さいことは近い人に、直らないときに一段上へ
  • 施設の中の仕組みとして苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員があります(社会福祉法第82条と、厚生労働省の苦情解決の仕組みの指針にもとづくものです)。連絡先は契約書・重要事項説明書に書かれています
  • 第三者委員は施設の職員ではありません。直接苦情を受け付ける、助言する、話し合いに立ち会う——直接言いにくいときの受け皿として使えます
  • ケアマネジャーと地域包括支援センターに間に入ってもらう方法もあります。地域包括支援センターは無料で、権利擁護業務として虐待の相談も担っています
  • 外部の窓口は市区町村 → 国保連 → 運営適正化委員会。市区町村が第一次的な窓口、国保連は介護保険サービスの苦情申立て(書面・調査を経て事業者へ指導助言)、運営適正化委員会は福祉サービス全般で調査・助言・あっせんを行います
  • 虐待が疑われるときは順番が違います。まず施設ではなく、市区町村(実際の相談は地域包括支援センターでも可)に直接。確証がなくても相談してかまいません。通報を受けた市町村の職員には通報者を特定させる情報についての守秘義務があり(法第23条)、施設の職員が通報した場合は解雇その他の不利益な取扱いが禁じられています(法第21条第7項)
  • 事故やけがのときは、状況の説明と記録、そして再発防止をどうするかを確認する。事業者には市町村と家族への連絡・記録が求められています。責任や賠償の判断は弁護士等の専門家へ
  • 改善しないときには住み替えという選択肢もあります。ただし本人の負担が大きいので、あせらず、今の施設にいながら並行して考えてください

気になることを伝えるのは、施設と争うことではありません。ご本人の暮らしをよくするために、情報を持ち寄ることです。そう考えると、少し言いやすくなるかもしれません。

そして、伝えたあとに何かが変わったら、それも言葉にしてみてください。「あのあと、本人が落ち着いているようです」「ありがとうございました」。その一言が、次に相談しやすい関係をつくります。相談できる関係があること自体が、ご本人を守る力になります。

ただし、ご本人の安全が心配なときには、遠慮は要りません。迷ったまま、市区町村や地域包括支援センターに相談してよいのです。ひとりで判断を抱えないでください。

⚠️ この記事について
この記事は、厚生労働省や都道府県・市区町村、社会福祉協議会、国民健康保険団体連合会などが公表している制度の一般的な説明(2026年7月時点)をもとにまとめたものです。特定の施設や事業所についての事例は、実在のものも、たとえ話として作ったものも記載していません。
窓口の名称、受付や申立ての方法、必要な書類、処理にかかる期間などは、お住まいの都道府県・市区町村によって運用が異なります。また、制度は見直されることがあります。
実際に相談するときは、市区町村の介護保険・高齢者福祉の窓口、地域包括支援センター、担当のケアマネジャーで最新の内容をご確認ください。損害の賠償や契約の解除など法律に関わることは、弁護士等の専門家にご相談ください。
📚 この記事で参考にした公的な情報
  • 社会福祉法——第82条(事業者による苦情の解決)、第83条(運営適正化委員会の設置と委員の構成)、第85条(苦情解決のための相談・助言・調査)、第86条(都道府県知事への通知)
  • 厚生労働省「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」(平成12年6月7日 児発第575号・社援第1352号・障第452号・老発第514号、その後改正)——苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員の役割、周知・記録・公表について
  • 介護保険法——第176条第1項第3号(国民健康保険団体連合会が行う、サービスの質の向上に関する調査と事業者への指導・助言)、第115条の46(地域包括支援センターの包括的支援事業)
  • 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)——第2条(虐待の類型)、第7条(養護者による虐待の通報)、第21条(養介護施設従事者等による虐待の通報。第1項〜第3項の区別、第7項の不利益な取扱いの禁止)、第23条(通報者を特定させる情報についての守秘義務)
  • 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(令和3年3月19日)——市町村への事故報告の標準様式と、報告の目安について
  • 各都道府県社会福祉協議会(運営適正化委員会)、各都道府県国民健康保険団体連合会、各市区町村の公表資料——苦情相談窓口の役割分担と手続きについて
条文の内容は要約してお伝えしています。正確な条文は法令の本文を、手続きの詳細はお住まいの自治体の案内をご確認ください。

あわせて読みたい記事